東京大学(東大)と東北大学(東北大)は、シリコンカーバイド(SiC)上のエピタキシャルグラフェンにおいて、走査トンネル顕微鏡(STM)による電流測定に現れるフォノンのシグナルの空間依存性を高精度に測定し、SiC基板とグラフェンの界面に潜む低エネルギーフォノンの存在を明らかにしたことを発表した。

同成果は、東北大学多元物質科学研究所の米田忠弘 教授、東京大学大学院工学系研究科の南谷英美 講師、物質材料研究機構の荒船竜一 主任研究員、Donostia International Physics CenterのThomas Frederiksen 教授、東北大学電気通信研究所の吹留博一 准教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国物理学会誌「PhysicalReviewB」に掲載された。

グラフェンは、SiCの熱分解法を用いて絶縁体表面上に作成することで、電界効果トランジスタなどの次世代のデバイス材料として用いることができると期待されている。しかし、この方法で作製したグラフェン中の電子の移動度が下がってしまうという問題があった。原因は、界面のフォノンによる電子の散乱であることが報告されているが、未だそのフォノンを観察することができていなかった。

今回、研究グループは、STMを用いて、界面のフォノンを観察することに成功した。熱分解法でグラフェンを成長させると、SiCとの界面にバッファー層と呼ばれるハニカム構造が崩れ、グラフェンとは異なった性質をもつ炭素の層ができる。さらに熱分解が進むと、バッファー層の上に、グラフェン層が形成される。グラフェン/バッファー層/SiCの構造をSTMで観察すると、バッファー層の周期構造を反映した、明暗パターンが得られた。

SiC上のエピタキシャルグラフェンとその界面構造。茶色い球が炭素、青い球がシリコン原子に対応している (出所:東京大学Webサイト)

グラフェン/バッファー層/SiCの構造におけるSTMトポグラフ像 (出所:東京大学Webサイト)

同パターンでは、明るい部分と暗い部分で測定した電気伝導特性が異なっていたことから、研究グループは、非弾性トンネル過程が明るい部分と暗い部分で異なる、つまり存在するフォノンの種類が異なることが原因であると考察している。

次に、どのようなフォノンが存在し、どのように電気伝導特性に関わってくるかを明らかにするために、グラフェンとSiC界面の電子・フォノン物性を第一原理計算によって解析。その結果、明るく見えた部分では、ダングリングボンドを持っていないことが分かった。さらに、ダングリングボンドをもったSi原子の垂直方向への振動に対応するフォノンが局在しており、電気伝導特性にも強い影響を与えることが判明した。

明るい部分(B)と暗い部分(D)での非弾性トンネル過程を含む微分コンダクタンスのシミュレーション結果。電気伝導特性のシミュレーション結果は、明るい部分・暗い部分で得られた実験結果を良く再現している (出所:東京大学Webサイト)

同成果は、グラフェンと基板界面の微細構造が特徴的な界面フォノンを生じ得ること、それを原子スケールで観察できることを示した事例となる。研究グループは、この界面フォノンは電子移動度が低下する原因の1つであると考えられるため、ダングリングボンドを解消し、フォノンのエネルギーを上昇させるような吸着原子の導入といった界面制御によって、電界効果トランジスタなどのデバイスの性能向上につながることが期待されると説明している。