スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームは、ペロブスカイト太陽電池の動作安定性を大幅に向上させることに成功したと発表した。変換効率は20%超で、正孔輸送層に従来よりも安価な材料が使われている。60℃の温度条件で1000時間以上太陽光を照射する加速劣化試験を行ったところ、試験後も当初の95%以上の変換効率を維持できたという。研究論文は、科学誌「Science」に掲載された。

正孔輸送層に安価なCuSCNを用いたペロブスカイト太陽電池の断面像(出所:EPFL)

ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池に匹敵する変換効率をより低い製造コストで実現できるとされ、次世代の太陽電池として研究開発が進められている。ただし、これまでのところペロブスカイト太陽電池で20%超の高い変換効率が出ているのは、正孔輸送材料として高価な有機系材料を使った場合に限られている。

しかも、有機系正孔輸送材料は、デバイスの長期安定性に対しては逆に不利な影響を及ぼすとされ、時間とともに変換効率が急速に落ちていくという問題を抱えている。したがって、ペロブスカイト太陽電池の実用化のためには、低コストな正孔輸送材料を使って動作時の安定性を確保することが課題となってくる。

安価な正孔輸送材料の候補として、チオシアン酸第一銅(CuSCN)がある。正孔輸送材料としてよく使われるspiro-OMeTADのコストが1グラムあたり500ドル程度するのに対して、CuSCNは1グラム0.5ドル程度と安い。しかし、これまでの研究では、CuSCNを正孔輸送材料に使った場合の変換効率はあまり高くなく、デバイスの安定性も良くないとされてきた。

デバイスの安定性に問題が出る主な理由は、CuSCN層を成膜するときに使われる溶媒が、ペロブスカイト層を劣化させるためであるとされている。CuSCNは溶かすがペロブスカイトは溶かさないという都合のいい溶媒が存在しないため、CuSCNを正孔輸送材料に使うときには、ペロブスカイト層に影響が出ないようにデバイスの層構造を逆転させる手法が用いられることもある。この場合、デバイス構造の逆転によって変換効率は伸びにくくなる。

そこで研究チームは今回、通常のペロブスカイト太陽電池と同じデバイス構造のままCuSCN層を形成できる新しい成膜法を開発したとしている。その方法は「ダイナミックデポジション」と呼ばれており、論文によるとペロブスカイト層を形成した基板を毎分5000回転させながら、液滴状にしたCuSCN溶液を滴下してCuSCN層を薄膜形成するというものである。スピンコーティングの一種であると思われるが、従来法と比べて溶媒が急速に蒸発すると説明されている。この方法で60nm程度に膜厚のそろったCuSCN層をペロブスカイト層の上に形成できたという。

もうひとつのブレークスルーは、酸化グラフェン還元体(rGO)をスペーサ層として導入したことである。一般的なペロブスカイト太陽電池では、正孔輸送層(今回の場合はCuSCN層)がペロブスカイト層と金や銀などの金属薄膜層(対向電極)に挟まれた構造になっているが、今回のデバイスではCuSCN層と金層の界面にrGO層が導入された構造になっている。

rGO層は、CuSCN層にとっては一種の保護膜のような働きをするとみられる。研究チームは、デバイスの劣化原因のひとつとして、電位によって引き起こされる金とチオシアン酸イオンの反応があると分析しており、これによって望ましくない障壁が形成されているとしている。rGO層の導入には、この反応を抑える働きがあると考えられる。

このように成膜法のデバイス構造の改良によって、安価なCuSCNを正孔輸送層に用いたペロブスカイト太陽電池において、20%超の高い変換効率と長期的な動作安定性を実現できたとする。色素増感型太陽電池の発明者として知られるマイケル・グレッツェル教授も今回の研究に参加しており、「ペロブスカイト太陽電池研究の大きなブレークスルーであり、量産実用化に道をひらくものになるだろう」とコメントしている。