ヤンマーとコニカミノルタは9月29日、都内で記者会見を開き、10月1日に農業リモートセンシングのサービス事業会社として、新たに合弁会社のファームアイを設立すると発表した。新会社は、農業における圃場のセンシングおよび画像解析サービス、農作物の生育状況の診断、および処方改善提案を行う農業コンサルティング事業を展開し、生産者の作業効率化や省力化などを図る。出資比率はヤンマーが51%、コニカミノルタが49%。

センシングドローン

カメラモジュール

これまで、両社は2014年に農林水産省「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」に採択されたプロジェクトで3カ年の実証実験を開始し、2015年にセンシングに活用するカメラモジュールと、無人ヘリによる可変施肥を行うための機器を開発。2016年には実証実験を全国18カ所に拡大したほか、2017年は実証実験に加え、サービス単価の検証も行い、収益性を算出し、3月から事業化してきた。

ヤンマーは、農業機械の提供による農業現場との接点を通じての農業機械と、豊富な営農支援メニュー、コニカミノルタのセンシング画像処理技術をはじめとした強みを活かし、生産者の経験値、ノウハウ継承の支援に取り組む。

ヤンマー 代表取締役副社長 兼 アグリ事業本部長の鈴木岳人氏は「現在、国内農業を取り巻く環境は就農人口は2005~2015年の10年間で40%減少し、離農した生産者の農地は集約化され、大規模農地を経営する生産者は土壌の管理が困難になるケースがあるなど、課題を抱えている。これらの課題解決に向けて従来からの農業機械はもちろん、営農に関わる多様なソリューションを提供することで農作業の効率化・省力化をサポートし、生産者の収益向上に貢献していきたいと考えている。そのような背景から、われわれとコニカミノルタはリモートセンシングの取り組みを2014年にスタートした」と、新会社設立に至った背景について説明した。

ヤンマー 代表取締役副社長 兼 アグリ事業本部長の鈴木岳人氏

農業リモートセンシングの基本技術として、植物は赤い光を吸収し、近赤外線は吸収しないという特性を持っている。この特性に基づきカメラの分光技術を応用し、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)の数値を算出する。NDVIからは作物の生育状況や食味診断、出穂時期・収穫時期の予測を可能としている。

農業リモートセンシングの基本技術

従来はNDVIの技術を活用し、衛星データや有人の航空機でセンシングを行っていたが、これらのセンシング方法では雲の障害、低解像度のため圃場のセンシングに限界があった一方で、コニカミノルタはSPAD(農林水産省「土壌作物育成診断機器実用化事業(Soil & Plant Analyzer Development」の略称で、葉の緑色の濃さを業界標準器「SPAD-502」で測定した値)の技術を有しているため、物理的に測定する同技術の数値とセンシングによるNDVIの高い相関を達成したという。

コニカミノルタが提供する技術

これにより、ドローンによる上空からのセンシングでも天候に左右されない、圃場の正確な生育データを取得できることを確認した。

コニカミノルタ 執行役 産業光学システム事業本部長の市村雄二氏は「われわれが提供する技術は、SPADの技術を拡張し、上空から計測した圃場のデータを分析する。これにより、農業の生産性向上や品質の安定化を実現する。また、独自の画像解析アルゴリズムによる経年での改善状態の把握を可能にしていく」と、強調する。

コニカミノルタ 執行役 産業光学システム事業本部長の市村雄二氏

実証実験で行った農業リモートセンシングの実施フローは、田植え後に稲が成長した段階でドローンによる葉色診断(農業リモートセンシング)を行い、見える化した生育状況のマップをベースに無人ヘリで可変追肥や翌年の元肥の設計に活用する。

マッピングによる生育状況の見える化

圃場の見える化により、生育状況を把握することで圃場間のバラつきを確認し、効率的かつ的確に土壌改良や施肥を行うことを可能としている。リモートセンシングによる解析と施肥設計により、約15~30%の収益性の向上が見込まれるという。なお、価格は1haあたり1万2000円を想定している。

農業リモートセンシングの実施フロー

ファームアイ 代表取締役の吉田博氏は「農業リモートセンシングの技術が確立されたことで、圃場の定期健康診断を行い、データに基づく土作りをサポートしていく。今後の事業拡大に向けてコニカミノルタはカメラの小型高精度化、センシングに関する機材の低コスト化、性能向上に取り組む。ヤンマーは、センシングデータを有効活用できる農業機械の開発・提供、営農支援ツール『スマートアシストリモート』によるデータの一元管理を行う仕組みを構築していく。そして、ファームアイは、それぞれの技術をベースに事業活動や、生産者の要望を反映したサービスの拡大を狙い、シナジー効果を発揮し、農業における課題解決に取り組む」と、意気込む。

ファームアイ 代表取締役の吉田博氏

開発ロードマップ

今後の目標として、国内では2023年度に生産者が担う水田面積の30%(約4000軒)でリモートセンシングを展開し、そのほかの作物への展開を開始する。海外では、2017年度には海外で実証実験を行い、東南アジア諸国を中心に拡大する方針だ。2023年度には100億円規模の売り上げを目指す。

今後の目標

左から鈴木氏、吉田氏、市村氏