東京大学(東大)は、パーキンソン病関連たんぱく質「USP30」とユビキチン鎖が結合した状態の立体構造を決定し、そのユビキチン鎖切断メカニズムを解明したと発表した。

不良ミトコンドリアの蓄積を原因とするパーキンソン病とUSP30との関係のイメージ図(出所:東京大学Webサイト)

同成果は、同大の深井周也 准教授、東京都医学総合研究所の田中啓二 所長らによるもの。詳細は英国の学術誌「Nature Structural & Molecular Biology」掲載された。

酵母からヒトにいたる真核生物の細胞内では、76個のアミノ酸で構成される小さなたんぱく質であるユビキチンが多様な生物プロセスを制御している。多くの場合、ユビキチンは数珠つなぎになった鎖(ユビキチン鎖)として働くことが分かっている。そのつながりかたの違いはユビキチン鎖の多様な役割と関連している。

田中氏の先行研究より、神経細胞における不良ミトコンドリアの蓄積が神経変性疾患であるパーキンソン病の原因の1つであることが判明していた。通常の細胞では、健常なミトコンドリアがさまざまなストレスにより不良ミトコンドリアになるとユビキチン鎖が付加され、それを目印としてオートファジーによる分解が行われる。このユビキチン鎖の特徴として、これまでほとんど機能が分かっていなかった鎖(Lys6鎖)が含まれている。

USP30は常にミトコンドリア外膜上に存在し、ミトコンドリア上のユビキチン鎖のうち、特にLys6鎖を切断除去することで、ミトコンドリアの過剰な分解が起きないように制御していると考えられている。したがって、USP30の機能解明はパーキンソン病発症メカニズムの理解につながるものであり、注目を集めていたが、USP30の機能を理解する上で最も重要なユビキチン鎖の切断メカニズムの詳細についてはこれまで明らかにされていなかった。

今回の研究では、Lys6鎖が結合したUSP30の結晶を作製し、大型放射光施設の高輝度X線と高度化した測定装置を利用し、その立体構造を高解像度で決定した。この構造から、USP30がLys6鎖を選択的に認識して切断する詳細なメカニズムが明らかになったとしている。また、最先端の質量分析法を駆使してUSP30によるミトコンドリア上のポリユビキチン鎖の切断を解析し、細胞環境により近い状態におけるUSP30の機能を解析を行った。

今回の成果について研究グループは、USP30の阻害は不良ミトコンドリアの除去を促進させることから、USP30の阻害剤はパーキンソン病に対する治療薬の候補として注目されている。また、今回の研究で解明したUSP30の高解像度の構造情報は、阻害剤設計の重要な足がかりとなり、パーキンソン病の治療薬開発につながることが期待されるとコメントしている。