松波弘之氏(本田財団提供)

本田財団(石田寛人理事長)は25日、2017年の本田賞を、電力制御に用いる新しい半導体素子「シリコンカーバイド(SiC)パワーデバイス」の先駆的研究と実用化に貢献した京都大学名誉教授の松波弘之(まつなみ ひろゆき)氏に授与することを決めた。

同財団によると、電力制御に用いられる半導体素子は「パワーデバイス」と呼ばれ、従来はシリコンが主な素材として使われてきた。松波氏はシリコンと、ダイヤモンドなどの高硬度素材である炭素を組み合わせたSiCに着目して1960年代後半から基礎研究に着手した。その後1987年に基板の表面を数度傾けることで結晶多形が揃った均一なSiC薄膜を形成できる手法を発表するなど、パワーデバイスに、高効率な電力制御を実現するSiCを用いる研究を、世界に先駆けて取り組んできた。

SiCパワーデバイスは2010年ごろから実用化され始め、2013年には東京メトロの地下鉄路線に導入されて、従来車両と比べて30%の省エネルギー化を実現した。また近年では、電車や高速エレベーター、太陽電池用パワーコンディショナー、エアコンディショナー、燃料電池車にも使用されているという。

本田財団は、松波氏の研究を通じて実用化されたSiCパワーデバイスは、同財団が目指す「人間性あふれる文明の創造」に寄与する、としている。本田賞は今年で38回目。授与式は2017年11月16日に東京都の帝国ホテルで開催され、メダル、賞状とともに副賞として1,000万円が贈呈される。

松波氏は1964年、京都大学大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了。1983~2003年、京都大学教授。2004~12年、科学技術振興機構(JST)イノベーションプラザ京都の館長を務めた。

関連記事

「磯貝明、矢野浩之の2氏に2016年本田賞」

「外科手術ロボット開発のテイラー教授に本田賞」