恐怖の記憶とそれを忘れる過程には、異なる神経が関わっていた - 理研

理化学研究所(理研)は9月19日、ラットを用いた研究により、恐怖条件づけ学習とその消去学習には異なるタイプのノルアドレナリン神経細胞群が重要であることを発見した。

同成果は、理研の脳科学総合研究センター記憶神経回路研究チームのジョシュア・ジョハンセンチームリーダー、植松朗研究員、バオ シェン・タン研究員らの国際共同研究グループによるもの。詳細は、国際科学雑誌「Nature Neuroscience」(オンライン版)に掲載された。

恐怖体験を記憶することは危険の予知などにつながる。一方で、恐怖記憶が不要になると、消去学習により記憶が上書きされ、恐怖記憶は弱まる。ラットにある音を提示したのちに、軽い電気ショックを足に与えると、ラットは音によって電気ショックの到来を予測することを学習し、音に対してすくみ反応という恐怖反応を示すようになる。これを、恐怖条件付け学習という。その後、音のみを繰り返し提示すると、音に対するすくみ反応は減少していき、これを消去学習という。

恐怖条件づけ学習と消去学習

これらの学習は、脳幹にある青斑核という、脳領域から分泌される神経伝達物質のノルアドレナリンが重要であることが分かっている。また、これまでの定説は、青斑核ノルアドレナリン神経の神経細胞群はすべて均一で、脳の各領域に一様に分布し、音などに対して一様の反応をするというものであった。しかし、そのノルアドレナリン神経の働きはよく分かっていなかった。

今回、研究グループはラットを用いて、2つの学習時における青斑核アドレナリン神経の役割について調査した。まず、神経細胞の軸索から細胞体へ逆行性に運ばれる標識を用いることで、青斑核内のノルアドレナリン神経細胞群には、扁桃体に投射する細胞群と前頭前野に投射する細胞群の、異なる2つの集団があることを見いだした。

また、扁桃体もしくは前頭前野投射ノルアドレナリン神経の軸索末端の他の脳領域への投射をそれぞれ確認したところ、どちらも多くの脳領域に投射しているものの、扁桃体投射群は他の脳領域よりも扁桃体への投射が多く、前頭前野投射群は前頭前野により多く投射するという特異的な投射パターンを持つことが明らかとなった。

逆行性に運ばれる標識を用いて標識した、ノルアドレナリン神経細胞群の写真と模式図。扁桃体に投射する細胞群(赤)が偏桃体に投射し、前頭前野に投射する細胞群(緑)が前頭前野に投射している

扁桃体投射神経細胞群(赤)と前頭前野投射神経細胞群(緑)の投射先イメージ図。それぞれは他の脳領域にも広く投射しているが、前頭前野もしくは扁桃体により多く投射するという特異的な投射パターンを持つことが明らかとなった

これらの結果により、これまでの定説を覆し、ノルアドレナリン神経細胞群は、偏桃体および前頭前野につながるそれぞれの細胞群が存在すること、恐怖条件付け学習には偏桃体に投射する細胞群が、消去学習には前頭前野に投射する細胞群が関わっていることがわかった。

なお、同成果に対し研究グループは、「現在、不安障害などの精神疾患に対して、ノルアドレナリンを標的とした治療薬が使用されている。今後、今回発見した2種類のノルアドレナリン神経細胞に特異的な遺伝子マーカーを同定し、選択的に標的とすることができれば、より効果的な治療法の開発につながると期待できる」とコメントしている。



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