京都大学(京大)は9月13日、妊娠したマウスを用いて腹側皮膚を構成する細胞の動きを観察した結果、妊娠が進むとともに、皮膚の最外層にあたる表皮の奥に、表皮幹細胞を起源とする高い増殖能を持つ細胞集団が出現することを発見したと発表した。

同成果は、豊島文子京都大学ウイルス・再生医科学研究所の一條遼 研究員らによるもの。詳細は英国の学術誌「Nature Communications」掲載された。

マウスの妊娠前後における腹部の比較画像(出所:京都大学Webサイト)

皮膚は、外部からの刺激によってダメージを受けやすいため、常に新陳代謝を繰り返すことで恒常性を維持している。新陳代謝のために新しい細胞を供給しているのが、表皮の深い部分に存在する表皮幹細胞だ。近年、皮膚の新陳代謝や創傷治癒における表皮幹細胞の役割が明らかになりつつある。一方、皮膚はライフステージごとの体形変化に応じて表面積を柔軟に変化させるが、生理的な体形変化に対して表皮幹細胞がどのように応答しているのかについては謎のままであった。

今回の研究では、マウスを用いて、急速に拡張する妊娠期の腹部の皮膚に着目し、その拡張メカニズムを解析。その結果、妊娠期には腹部表皮の奥に高い増殖能を持つ細胞集団が出現することを発見。転写因子である「Tbx3」が、妊娠期腹部表皮の基底細胞の増殖と皮膚拡張に必須であることを明らかにした。

Tbx3陽性細胞は、表皮幹細胞が表皮と真皮の間にある基底膜に対して水平に非対称分裂あるいは対称分裂分化することにより作られ、水平分裂を繰り返すことにより、妊娠期の急速な表皮拡張を可能にするものだとしている。また、妊娠期には真皮に存在するα-SMA/Vimentin陽性細胞が Sfrp1、Igfbp2 というタンパク質を分泌し、表皮幹細胞からTbx3陽性細胞の産生を促進するという。さらに、Tbx3陽性細胞は創傷時にも出現し、治癒を促進すること、Sfrp1やIgfbp2を注射することで治癒が促進されることが明らかになった。これらのことから、表皮幹細胞から産生される、増殖性の高い新規の細胞集団の存在が判明した。

なお、研究チームは同成果について、この細胞集団は、妊娠期の皮膚拡張や創傷治癒に必須であったことから、皮膚の拡張時に重要な役割を果たすと説明しているほか、今後、再生医療への応用展開につながると期待するとコメントしている。