国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は9月5日、新規酸化還元制御因子システインパーサルファイド(Cys-SSH)とグルタオンパーサルファイド(GSSH)が、3-メルカプトピルビン酸転移酵素(3MST)によって生合成されることを明らかにしたと発表した。
同成果は、NCNP神経研究所 木村英雄博士、明治薬科大学 小笠原裕樹教授、ルイジアナ州立大学David Lefer教授らの研究グループによるもので、9月5日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
これまで、細胞内還元環境恒常性を担う分子はシステイン(Cys-SH)やグルタチオン(GSH)であると考えられていたが、最近では、これら分子にさらにS原子が付加されたCys-SSHやGSSHがより強力な還元作用を持つことから、これら過硫化体が還元環境恒常性を担っていると考えられるようになってきた。しかし、その生合成酵素についてはわかっていなかった。
今回、同研究グループは、硫化水素(H2S)やその過硫化体であるポリサルファイド(H2S2、H2S3)を生合成する3MSTが、Cys-SSHやGSSH、さらにはタンパクの過硫化(R-SSH)を行うことを明らかにした。
過硫化が関わる生理・病態生理的所見として、パーキンソン病患者脳では過硫化分子の減少が認められ、神経伝達が過硫化分子によって制御されていること、過硫化分子が神経細胞を酸化ストレスから保護すること、過硫化分子を生合成する酵素3MSTの欠損によって不安症状や精神遅滞を呈することが挙げられる。また、過硫化分子は、がん増殖因子の制御、血管弛緩作用による血圧制御にも関与している。さらに、3MSTは、過硫化によるtRNA合成制御を介して、タンパク合成に関わっていることから、この酵素の活性を制御または補完することにより、さまざまな疾患の治療につながることが期待されるという。