富士通と医療法人の三慧会は9月4日、不妊治療における効果的な治療を実現する診療支援システムの実証研究を9月~12月の期間で実施すると発表した。これにより、患者のホルモン検査値や治療経過などに関するビッグデータに基づいた不妊症の診断や治療を実現するという。

治療効果の可視化

近年、晩婚化などを背景に不妊治療患者は年々増加傾向にある。国内では6組に1組のカップルが不妊治療患者とされており、体外受精、顕微授精、凍結胚移植を合計した不妊治療実施件数は2014年時点で約39万件と、10年間で3倍以上に増加。不妊治療は、長期間の治療となるケースが多いため、患者の身体的、経済的負担が大きいほか、出産希望患者の高齢化が今後さらに進むことが予想されており、高い効果をあげられる治療法の確立が求められているという。

しかし、不妊治療分野は他の疾患分野と比べると歴史が浅く、豊富な臨床データに基づいた医療が十分に確立されていないため、医師は自身の経験則に基づいて最適と考えられる治療法を判断せざるを得ないことが課題となっている。実証研究では、富士通が開発した不妊症版類似症例検索システムを活用し、三慧会が行ってきた不妊治療の現場で得られた、過去に不妊治療研究の協力に同意した約1000人の患者(以下、過去患者)のホルモン検査値や治療経過などに関するデータから、治療対象患者と類似する複数の過去患者のデータを抽出。

不妊症版類似症例検索システムは、患者の治療過程の中で得られる診療データから、ホルモン検査値や既往歴などのデータに基づいて、類似する過去患者を検索することができることに加え、それぞれの過去患者に対して実施された治療法と投与された薬の量ごとに、採卵数や正常受精数、成熟卵数、胚グレード(胚細胞の分裂均等度、細胞数などを元に胚の質を評価したもの)、妊娠率を可視化し、治療対象患者に対する治療効果を予測する。

不妊症版類似症例検索システムの解析結果と治療実績の比較からの予測精度評価

さらに、抽出された過去患者に実施したさまざまな治療ごとの効果(正常受精数、妊娠率など)を可視化することで、患者に行う治療や投薬の効果を予測。すでに不妊治療の結果(妊娠の有無など)が判明している過去患者の診療データを予測精度の検証用データとして活用し、三慧会が不妊症の診療支援システムとしての有効性を検証する。

両者は、ビッグデータに基づく不妊症の診断や治療を実現し、不妊治療領域をさらに発展させることで出生率を向上させ、少子化の進む日本社会に貢献することを目指す。また、不妊症版類似症例検索システムの示す治療効果予測によって適切な治療法の選択を支援することで、患者あたりの治療回数を減らし、身体的、経済的な負担を軽減するとともに、医師の診療業務の負担軽減を実現していく方針だ。