東北大学は8月31日、東北沖地震前後の期間(1991年~2016年)に岩手県釜石鉱山の地下約300mで測定された地殻に加わる力の増減と、発生した地震の規模および発生頻度の相関から、「本震の断層すべり破壊が停止した地域では地殻応力が上昇し余震を活発化させ、さらにその余震で、上昇した地殻応力が元の状態に戻る」という、地震―地殻応力関係を確認したと発表した。

同成果は、同大学大学院環境科学研究科の坂口清敏 准教授、渡邉則昭 准教授、京都大 学大学院工学研究科の林為人 教授、応用地質の横山幸也 技師長の研究グループによるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」電子版に掲載された。

東北地方太平洋沖地震前後の地殻応力の変化(出所:東北大学Webサイト)

地殻応力は地下で発生する方向性を持った力で、場所ごとに大きさと方向の異なる三次元的な圧力が同時に作用している。地殻応力は地震発生のトリガーいわれており、この測定は、トンネルや地下空洞の設計・施工など工学分野で一般的に行われている。

今回の研究では、円錐孔底ひずみ法という地殻応力測定法を用いて、1991年~2016年にかけて岩手県釜石鉱山の地下約300m地点において測定された地殻応力の大きさの変化に着目。そこから、東北沖地震1年後の地殻応力の3成分である最大、中間、最小主応力の大きさは、地震前に比べて2倍~4倍大きくなってなり、徐々に減少して、3年後以降は地震前のレベルに戻っていることを確認した。

東北沖地震における5m以上の地震すべりの分布図に三陸沖低地震活動域(SLSR)を重ねたところ、すべりの小さな領域(5m 未満のすべり)は釜石沖にコの字型に分布しており、この領域は、地震の空白域であるSLSRに含まれています。釜石地域は東北沖地震のすべり域の西側外縁に位置していますが、本震によるすべりは釜石沖のコの字型の領域で止まったと推察されるという。

東北地方太平洋沖地震による5m以上の地震すべり分布(出所:東北大学Webサイト)

釜石沖で発生した地震の規模と発生頻度を調べると、東北沖地震前(1955年~2010年)は、約5.5年おきにマグニチュード4.7~5.1の地震が発生していた。一方、東北沖地震後の 1か月間は10日に1回程度の頻度でマグニチュード5.5~5.9の地震が発生している。また、東北沖地震の1年~2年後の期間では、4か月に1回の発生頻度になり、その規模は東北沖地震前とほぼ同じ規模に戻っている。

地殻応力と釜石沖地震の相関から、「東北沖地震発生直後の地殻応力の上昇は、釜石沖でSLSRがバリアとなりすべりが止まったことが原因である。この結果、地殻応力が上昇し釜石沖で地震が増加した。頻発した地震により地殻応力が解放され、釜石鉱山における東北地震後 2 年目以降の応力値は減少し地震の頻度も減少した」という地震―地殻応力関係が理解されるとしている。

なお、今回の成果について同研究グループでは、地震発生のトリガーとなる地殻応力を浅所(地下数百m)であっても定期的に定点で測定すれば、甚大災害と成り得る巨大地震のすべり破壊挙動の理解に資する情報が得られることも示しており、地震研究の新たな手法の確立への貢献が期待されるとコメントしている。