大阪大学(阪大)は8月29日、ラクトフェリンが胎生期の唾液腺形成を誘導し、放射線照射時の唾液腺損傷に対する修復治療に有効であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大学大学院歯学研究科の阪井丘芳 教授らの研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

頭頚部癌に対する放射線治療は、周辺臓器である唾液腺が障害されるために口腔乾燥症、摂食嚥下障害等の口腔機能障害が問題になっている。対症療法があるものの、機能回復を図るための根本的な治療法はなく、新しい再生医療の開発が期待されている。

ラクトフェリンは、出産後数日間に分泌される母乳に多く含まれる物質。授乳により免疫グロブリンやラクトペルオキシダーゼとともに母体から新生児に取り込まれることから、これらとともに新生児を外敵から防御していると考えられてきた。

近年、ラクトフェリンが放射線障害を防護する効果を持つと報告されていたが、各臓器に対する作用について不明な点が多く、経口投与すると消化管で代謝されることから、臓器に到達しても作用を十分に発揮できないなどの課題があった。

ラクトフェリンによって発達が誘導された胎仔の唾液腺(出所:阪大Webサイト)

今回の研究では、胎生期マウスの唾液腺の器官培養にラクトフェリンを添加した結果、臓器形成が誘導されること発見。また、放射線照射直後の成体マウスの腹腔内にラクトフェリンを注射を行ったところ、唾液腺の障害が抑制されることが明らかになった。これらから、ラクトフェリンの投与が臓器の形成や障害の抑制に対して効果を発揮することが示されたとしている。

なお、今回の成果を受けて研究グループは、今後、ラクトフェリンを初めとする既存薬やサプリメントによる臓器再生医療の開発を期待し、年々増加する医療費の削減や難病で悩む人々のQOL向上に役立てたい、とコメントしている。