物質・材料研究機構(NIMS)は8月29日、化学反応中に連続的に変化する各元素の動きを、X線の動画として連続取得することに成功したと発表した。

同成果は、物質・材料研究機構先端材料解析研究拠点の桜井健次 上席研究員と趙文洋 NIMSジュニア研究員によるもの。詳細は米国のオンライン論文誌「ACS Omega」に掲載された。

(左上)ケミカルガーデンの光学顕微鏡観察(化学反応終了後)、(右上)ケミカルガーデン全体の蛍光X線スペクトル(化学反応終了後)、(下)ケミカルガーデンのカルシウムと鉄の蛍光X線動画イメージング(出所:NIMSニュースリリース)

多くの化学反応では、構成元素の拡散や移動が起こる。その際、それぞれの元素の量・濃度がどの位置でどのように変化してゆくのかを正確に理解することは、再現性の高い合成法を確立し、さらに優れた合成の方法を見出してゆく上で重要であった。

例えば、ケミカルガーデンと呼ばれる化学反応では、塩化カルシウムと硫酸鉄の混合粉末から、反応が起こり、色や形が複雑に分布する物質が得られる。これまでは、こうした色や形状の変化を光学顕微鏡等によって観察し、元素の量や濃度の変化を間接的に解釈していたに過ぎず、直接元素をとらえる方法が模索されていた。

物質にX線を照射した際に出てくる蛍光X線のエネルギーから元素の種類が、その強度から量がわかることが知られている。これを記録する動画のイメージングの技術を発展させることができれば、化学反応の過程を追跡可能になるという。

同研究は、可視光用途に提供されている冷却CCDカメラやCMOSカメラを用いて、投影法による蛍光X線イメージングの動画撮影に成功した。これらのカメラで、ケミカルガーデンの反応過程を撮影したところ、鉄とカルシウムのそれぞれが異なる拡散速度で移動しており、ケミカルガーデンの色や形状の違いが鉄とカルシウムの濃度の差異によって生まれることを明らかにしたとする。

なお、今回の成果について同研究グループでは、今後、さらに多くの化学反応系に応用し、そのメカニズムを元素の観点で解明し、材料開発に貢献したいとコメントしている。