東京大学は、放射線治療の最適化の可能性を検討するため、炭素線をメダカ胚中脳の一部へ照射する実験を行った結果、局所照射後に脳損傷を除去するため損傷部位にミクログリアの活性化が誘導され、脳損傷が除去された後もミクログリアは活性化したまま脳全体へ拡がり、活性化が脳内において長期的に継続していることを明らかにした。

同成果は、同大大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻の保田隆子 特任研究員、三谷啓志 教授、尾田正二 准教授と量子科学技術研究開発機構の舟山知夫 博士との共同研究によるもの。詳細は、スイスの科学誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載された。

活性化したミクログリアは脳組織の照射された領域の外へ広がる (出所:東京大学大学院新領域創成科学研究科 Webサイト)

近年、悪性脳腫瘍治療では、病変部を外科手術で摘出後、肉眼では摘出できない病変周囲にミクロに浸潤する腫瘍に対して放射線を照射する治療が主流となっている。両者を併用する治療は脳腫瘍患者の予後が良い一方で、放射線治療には大線量が適用されるため、腫瘍患部周辺の正常細胞の損傷が避けられず、これによって引き起こされる放射線治療後の認知機能低下などの悪影響が問題となっている。特に、小児の脳は成熟した大人の脳よりも放射線に対する感受性が高いため、放射線治療予後に起こる二次的な悪影響を回避もしくは軽減させることが臨床治療での大きな課題となっている。

同研究では、放射線治療のさらなる最適化の可能性を検討するため、メダカ胚脳への局部照射が可能な量子科学技術研究開発機構の重粒子線照射施設(TIARA)を利用して、炭素線をメダカ胚中脳の一部へ照射する実験を行い、脳内ミクログリアの照射後の挙動を調査した。

その結果、局所照射後に脳損傷を除去するため損傷部位に限ってミクログリアの活性化が誘導されるが、脳損傷が除去された後もミクログリアは活性化したまま損傷部位から脳全体へ拡がり、ミクログリアの活性化が脳内において長期にわたり継続していることを明らかにした。

なお、研究グループは、脳組織における免疫機能を担うミクログリアの活性化は、傷害を受けた脳組織の修復に重要だが、損傷した部位以外へ拡がる過剰な活性化が正常な神経細胞へ炎症反応を拡げている可能性も考えられる。放射線治療予後ばかりでなく、慢性ストレスが誘発する脳機能障害の改善にもメダカ胚がモデルとして利用できる可能性が示唆されたと説明している。