慶應義塾大学(慶大)などは8月25日、金星大気大循環に対するデータ同化システムの開発に成功したと発表した。

同成果は、慶應義塾大学 杉本憲彦准教授らの研究グループによるもので、8月24日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

金星は厚い雲層によって全体を覆われており、大気内部の運動についてはほとんどわかっていない。そこで、同研究グループでは、金星大気運動の解明を目指し、金星大気大循環モデル「AFES-Venus」の開発を進めている。これまでに、現実的な東風分布の再現や、金星大気における傾圧不安定波の存在とその重要性の指摘、周極低温域の生成メカニズム解明などの成果が同モデルにより得られている。

今回の研究では、地球や火星の大気で用いられている観測データの同化手法である、アンサンブルデータ同化と呼ばれる手法をAFES-Venusに導入し、金星大気のデータ同化システムを開発。同システムの有効性を検証するため、数値シミュレーションで得られた疑似観測データと、過去の金星探査機「Venus Express」の観測データを用いた同化実験を、海洋開発研究機構のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて実施した。

この結果、時空間的に限られた観測データを用いているにも関わらず、観測データに含まれる惑星規模の大気波動が大気大循環モデルのなかで正しく再現されることがわかった。これは、金星大気の流れを調べるのに探査機の観測データを利用したデータ同化が有用であることを示した結果であるといえる。

同研究グループは、今後、金星探査機「あかつき」によって得られた、高解像度かつ高頻度の観測データを同システムで同化することにより、大気スーパーローテーションの成因の解明など、金星大気内部の運動の理解が進むものと説明している。

東西風速(等値線)と温度(カラー)の経度高度断面図。左が同化なし、右が同化あり実験の結果。高度70km(緑点線)の風速データのみを同化することによって、金星大気全体で熱潮汐波が再現され、熱潮汐波に伴う温度の擾乱が上方へと伝播している (出所:慶大Webサイト)