京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、劇症1型糖尿病患者由来iPS細胞から、インスリンを産生する細胞を分化誘導することに成功し、この細胞が細胞傷害刺激に対して細胞死(アポトーシス)に陥りやすい可能性があることを明らかにしたと発表した。

劇症1型糖尿病患者由来のiPS細胞から分化誘導して得られた膵β細胞様細胞(黄:インスリンを作っている膵β細胞様細胞、青:核)スケールバー;100μm.(出所:CiRAプレスリリース)

同研究は、細川吉弥研究員(大阪大学大学院内分泌・代謝内科、京都大学CiRA)、豊田太郎講師(京都大学CiRA)、今川彰久教授(大阪大学大学院内分泌・代謝内科、大阪医科大学内科学I)、下村伊一郎教授(大阪大学大学院内分泌・代謝内科)、長船健二教授(京都大学CiRA)らの研究グループによるもので、同研究成果は、8月10日にアジア糖尿病学会誌「Journal of Diabetes Investigation」で公開された。

劇症1型糖尿病は、急激に発症してインスリンが不足し血糖値が高い状態になる疾患で、特定の遺伝的素因をもつ人に、ウイルス感染が引き金となってほぼすべてのβ細胞が破壊されることで発症すると考えられているが、膵β細胞が傷害される詳細なメカニズムは不明だった。そこで同研究グループは、劇症1型糖尿病患者からiPS細胞を作製し、そこから分化誘導させた膵β細胞様細胞を用いることで、劇症1型糖尿病の病態解明を目指した。

iPS細胞から分化誘導して得られた膵β細胞様細胞に細胞傷害を引き起こしたときの細胞死(アポトーシス)を起こした細胞の割合。 健常者のiPS細胞および劇症1型糖尿病患者のiPS細胞から分化誘導された膵β細胞様細胞に占めるアポトーシス細胞の割合(左)を比較すると、 劇症1型糖尿病患者のiPS細胞では有意にアポトーシス細胞の比率が高かった(右)。(出所:CiRAプレスリリース)

同研究チームはまず、劇症1型糖尿病患者3人の皮膚細胞に6つの初期化因子を導入することで、iPS細胞を作製。このiPS細胞は、化合物および成長因子の組み合わせ処理を行うことで、インスリンを分泌する膵β細胞様の細胞に分化させることが可能であることを示した。次に、劇症1型糖尿病において、どのように膵β細胞が破壊されるのかを解明するために、劇症1型糖尿病患者および健常者のiPS細胞から分化誘導させて得られた膵β細胞様細胞に、細胞傷害刺激としてサイトカインを投与した。すると、劇症1型糖尿病患者の膵β細胞様細胞では、細胞死(アポトーシス)を起こしている細胞の割合が高いことがわかった。また、この病態モデルを用いて、RNAシークエンスによる網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、いくつかのアポトーシス関連遺伝子や抗ウイルス関連遺伝子の発現に違いがあることがわかったという。

同研究では、劇症1型糖尿病患者由来のiPS細胞を膵β細胞様細胞に分化誘導し解析することで、患者の膵β細胞は細胞傷害刺激に対して細胞死を起こしやすい可能性があることを示した。この病態モデルは劇症1型糖尿病のさらなる病態解析に応用できることが期待されるということだ。