東京工業大学(東工大)は8月24日、金原子接点に温度勾配をかけることで、正および負の電圧を発生させることに成功したと発表した。

同成果は、東京工業大学理学院化学系の大学院生 相場諒氏、同 金子哲助教、木口学教授らの研究グループによるもので、8月11日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

物質に温度勾配を与えると、物質内の電子の運動性が位置によって変化し、物質の両端に電圧が発生する。この熱により発生する電圧は熱起電力と呼ばれ、排熱を電気に変換する熱電変換素子に応用されている。

ひとつの材料で発生する熱起電力の大きさはμVオーダーと小さいため、実際の熱電変換素子は正負の熱起電力を発生する材料を交互に積層させることで、実用に耐える電圧を発生させている。したがって熱電変換素子の開発は正負両方の熱起電力を発生させる材料開発が求められるが、これまで熱電材料として用いられてきた物質は発生する熱起電力の符号は材料物質によって一意に決まっており、単一の材料から正負両方の熱起電力を発生させることは困難であった。

今回、同研究グループは、熱起電力を決定づける電子状態が構造によって敏感に変わることが期待される金に着目。超高真空・極低温(-260℃)の環境下において、金細線を伸長させることにより金原子接点を作製した。

この金細線の両端にヒーターと温度計を取り付け、温度勾配を金原子接点に与えながら、電気伝導度および熱起電力を同時に計測したところ、熱起電力の極性およびその大きさを、金原子接点の構造をわずかに変えることにより自在に制御できることが明らかになった。

左)金原子接点を機械的に伸長、圧縮させた際の熱起電力(VT)と伝導度(G)の同時計測結果の例。一番下は電極の変位の大きさを示す。伸長、圧縮を繰り返すことで、熱起電力が正負反転して、可逆的に変化している様子がわかる 右)対応する原子接点の概念図 (出所:東工大Webサイト)

同研究グループは今後、正負の熱起電力を発生する原子接点を複数連結し、システムとして発生する電圧を増大させることで、排熱から電気を発生させる熱電変換素子への応用に取り組んでいくとしている。