東北大学は8月21日、ナノ磁性材料の磁気異方性エネルギー(MAE)をナノ構造と同時に可視化・測定することに成功したと発表した。

同成果は、東北大学多元物質科学研究所 プニート・ミシュラ研究員、岡博文研究員、米田忠弘教授、三重大学工学研究科 中村浩次准教授らの研究グループによるもので、8月14日付の米国科学誌「Nano Letters」オンライン版に掲載された。

磁石が記録媒体に利用される理由のひとつは、N極・S極の方向を一旦決定すればその情報は百年単位の長時間保持される優れた保持力をもつことにある。しかし、磁気記録の高密度化が進むと、単一ビットあたりの磁性体原子の数が減少し、N極・S極を反転させるのに必要なエネルギーが低下する。これにより、安定な記録ができなくなることが問題視されている。MAEは、この反転エネルギーと関連したもので、MAEを増大させることができればナノ磁性体の記録の安定性向上につながる。

今回、同研究グループは、原子レベルで磁気特性を測定可能なスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)の手法を利用。金属基板に成長させた強磁性薄膜であるコバルト2層膜のナノサイズの島を観察対象として用いた。この薄膜の島は、N極・S極のどちらかが表面から飛び出す方向を向いており、外部から磁場を印加した場合、最初磁場と反対を向いていた島も、ある強さの外部磁場の印加で、それと同じ方向に反転する。

同研究グループは、この反転を生じる外部磁場の大きさから、ΔE、さらにMAEエネルギーを求めることが可能なことを確認。ともに非磁性金属である銅と金を基板とした場合、銅と比較して金の基板に成長させたコバルト島には約2倍のMAEが観察された。理論計算との比較により、金の大きなスピン軌道相互作用の影響によってコバルトに大きなMAEが観察されたものと考えられる。

さらに同研究グループは、基板に影響された薄膜磁性体の結晶性や、基板からの電子・スピン状態への影響がMAEの決定に大きく関与していることを解明した。今回の成果については、高密度磁気記録の実現や、ナノ材料を用いたスピントロニクスデバイスの構築に貢献するものと説明している。

(a)磁石の微視的構造。磁石の基本単位スピンが多数絡み合い、全体として同じ方向を向く (b)磁石のN・S極の反転に伴うエネルギー模式図。反転エネルギーΔEを越えた場合、S極上向き(緑)からN極上向き(赤)に遷移する (出所:東北大Webサイト)