大阪大学と科学技術振興機構(JST)は、大阪大学院医学系研究科の村松里衣子 准教授、山下俊英 教授らの研究グループが、膵臓から産生されるホルモン様物質が脳や脊髄の神経回路を修復することを明らかにしたことを発表した。この研究成果は8月22日、米国医学誌「The Journal of Clinical Investigation」にて公開された。

傷ついた脳脊髄の神経回路は、膵臓が分泌するFGF21によって修復される(出所:ニュースリリース)

さまざまな脳脊髄疾患では脳や脊髄の神経回路が傷つくが、傷ついた神経回路はしばしば自然に修復する。神経回路の修復に関するこれまでの研究では、脳や脊髄の中の環境が重要と考えられており、脳脊髄の外部にある臓器から分泌される物質が神経回路の修復に与える影響は解明されていなかった。

今回、研究グループは、マウスを用いた実験により、髄鞘の修復を促す物質が血液の中に含まれていること、またその修復する働きを持つ物質はFGF21と呼ばれるホルモン様物質FGF21であり、特に膵臓から分泌されるものであることを突き止めた。FGF21を自ら作り出すことができないマウス(FGF21欠損マウス)と正常マウスを比較すると、術後14日で足を踏み外す割合が12%違うなど、症状の改善が抑制されていた。

FGF21欠損マウスでは、神経回路に傷害を受けたあと髄鞘の修復が正常マウスと比べて阻害されていた(出所:ニュースリリース)

また、髄鞘が傷ついたマウスにFGF21を投与すると、髄鞘がよく修復するようになった。髄鞘の修復にはオリゴデンドロサイト前駆細胞が増殖する必要があるため、研究グループは、多発性硬化症患者の脳のオリゴデンドロサイト前駆細胞を調べた。その結果、それらの細胞にはFGF21受容体(FGF21と結合してその作用を細胞内に伝えるタンパク質)が発現していることを見いだした。さらに、培養細胞を用いた実験から、FGF21がヒトのオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促すことを明らかにした。

この研究成果により、脳脊髄の外部にある臓器から分泌されるFGF21が脳脊髄の神経回路の修復を促すことが判明した。今後、その分子が脳脊髄のさまざまな細胞や機能にいかに作用するか、研究の発展が期待される。また、FGF21に関しては、多発性硬化症など、髄鞘の傷害が見られる疾患に対する治療薬の開発につながることが期待されると説明している。