慶應義塾大学は、がんに有効な治療薬とされるオプジーボが原因となって発症した重症筋無力症の以下の特徴を明らかにしたと発表した。

オプジーボが原因となって発症した重症筋無力症は、薬と関係なく発症した重症筋無力症に比べて症状が重い場合が多い(出所:慶應義塾大学プレスリリース)

同研究は、慶應義塾大学医学部内科学(神経)教室の鈴木重明専任講師を中心とした全国の病院・大学病院・研究機関等から成る14施設の共同研究によるもので、同研究成果は、米国東部時間8月18日に米国神経学会機関誌である「Neurology」に掲載された。

オプジーボは、免疫機能を調節することで多くのがんに有効な薬で、広くがん治療に用いられている。一方、これまでの抗がん剤にはない副作用も報告されており、重症筋無力症もそのひとつだが、詳細はわかっていなかった。重症筋無力症とは、神経と筋肉のつなぎ目の部分に免疫の異常がおこる病気で、体全体の筋肉または部分的な筋肉が動かなくなる。通常は薬とは関係なく起こり、目だけに症状がある場合(眼筋型)から全身の筋肉に力が入らなくなる場合(全身型)まであり、呼吸ができなくなる場合(クリーゼ)が最も重篤となっている。

同研究では、オプジーボの副作用として知られている重症筋無力症の発生頻度が低いこと、しかし、発症した場合には重篤になる確率が高いため適切な診断と早期の治療が必要であることを明らかにした。同研究チームが、日本におけるオプジーボ販売後2年間の副作用報告を解析したところ、オプジーボを投与された9,869人のがん患者の中で、12人(0.12%)が重症筋無力症を発症し、このうち9人はオプジーボ投与開始直後、1回目または2回目の投与を行った後に発症した。症状は急速に進行し、薬と関係なく発症した重症筋無力症に比べて症状が重い場合が多く、9人のうち6人がクリーゼとなった。

オプジーボ投与による発症の場合は、筋肉に多量に存在する酵素であるクリアチニンキナーゼが血液中に出現し、採血の際、その値が急に上昇するという特徴がある。この理由は、重症筋無力症と同時に手足や心臓の筋肉にはげしい炎症(筋炎・心筋炎)が起こるためであり、筋肉の症状はより重篤になる。薬によらない重症筋無力症と同じく、ステロイドや免疫グロブリンによる治療は重篤化を防ぐために有効だが、クリーゼになると自分で呼吸ができなくなり、人工呼吸器の装着が必要とされるため、長期間の入院を余儀なくされる。また、今回の調査では、12例中2例の死亡例があったという。

オプジーボによる重症筋無力症は、早期に診断しチーム医療による迅速な処置を行うことで重篤化を防ぐことが可能である。今後は、オプジーボを開始する際に重症筋無力症の発症を予測できる検査の開発が望まれるということだ。