東京大学は、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の門脇孝教授、山内敏正准教授、脇裕典特任准教授、平池勇雄特任研究員および東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス分野の油谷浩幸教授、堤修一特任准教授らの研究グループが、褐色脂肪組織に特異的なDNA上のオープンクロマチン領域の解析から、褐色脂肪組織の新規の主要制御因子としてNFIAを同定したと発表した。この成果は8月15日、英国科学雑誌「Nature Cell Biology」オンライン版に掲載された。

研究の概念図(出所:東大病院ニュースリリース※PDF)

肥満症とそれに起因するメタボリックシンドロームや肥満2型糖尿病は、心血管疾患、腎疾患や悪性腫瘍のリスクを高めることから、健康寿命の延伸を目指す上で大きな障害となっている。近年、エネルギーの貯蔵を担う「白色脂肪組織」以外に、熱産生を介してエネルギーを消費する「褐色脂肪組織」がヒト成人にも存在することがわかり、褐色脂肪組織の数や働きを高めることが肥満症の新しい治療法につながり得るとして期待されている。

研究グループは、マウス褐色・白色脂肪組織において、DNA上のオープンクロマチン 領域を網羅的に同定できるFAIRE-seqを行った。褐色脂肪組織に特異的なオープンクロマチン領域には、転写因子NFIAの結合配列が最も強く濃縮していた。 転写因子とDNAの結合を網羅的に解析できるChIP-seqと呼ばれる手法により、NFIAが褐色脂肪組織のオープンクロマチン領域へ結合し情報の読み出しを促進することで、褐色脂肪の遺伝子プログラムを活性化していることを明らかにした。

また、脂肪細胞においてはこれまでに、核内受容体のひとつであるPPARγと呼ばれる転写因子がその分化に必要十分であると知られており、脂肪細胞分化の「マスター転写因子」と考えられていた。研究グループは、NFIAがPPARγに先行してDNAへ結合し、かつPPARγのDNAへの結合を促進することで、NFIAとPPARγが協調的に褐色脂肪の遺伝子プログラムを活性化することを見出した。すなわち、褐色脂肪特異的な遺伝子プログラムの活性化はPPARγのみでは達成できず、NFIAの存在が必須であると考えられる。

NFIAを欠損させたマウスでは、褐色脂肪の遺伝子プログラムが著しく障害されていた一方で、NFIAを導入した場合には、筋芽細胞や白色脂肪細胞においても褐色脂肪の遺伝子プログラムが活性化された。さらに、ヒト成人の褐色脂肪組織でも白色脂肪組織と比較してNFIA遺伝子が高発現しており、その発現は褐色脂肪に特異的な遺伝子の発現と正に相関していることがわかった。このことから、NFIAはクロマチンの制御を介してPPARγと協調的に褐色脂肪の遺伝子プログラムを活性化する転写因子と考えられる。

研究グループは今後、NFIAの発現を欠損させたり増やしたりしたマウスにおける体重や脂質、血糖値等を解析して肥満症、メタボリックシンドローム、肥満2型糖尿病の発症への影響について研究するとともに、NFIAの発現を制御する上流因子についても探索を進めていくという。

また、今回の成果は、NFIAの働きを高めることで「エネルギー摂取の抑制」ではなく、「エネルギー消費の促進」に基づく肥満症、メタボリックシンドローム、肥満2型糖尿病の新しい治療につながる可能性があると期待されると説明している。