仲間の間で社会的順位が低いと、人間のうつ症状のような行動を示すことがマウスの実験で明らかになった、と情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と静岡県立大学の共同研究グループが発表した。研究グループは、社会的順位がうつ様行動に関係する脳内遺伝子の発現に影響することも明らかにしており、興味深い成果として注目される。論文はこのほど、英科学誌サイエンティフィック・リポーツ電子版に掲載された。

図 国立遺伝学研究所の研究グループは、ケージ内で形成される社会的順位がマウス個体の行動・性格や脳内の遺伝子発現に影響を及ぼすことを明らかにした(提供・国立遺伝学研究所)

国立遺伝学研究所の堀井康行(ほりい やすゆき)研究員、小出剛(こいで つよし)准教授と静岡県立大学食品栄養科学部の大学院生長澤達弘(ながさわたつひろ)氏、下位香代子(しもい かよこ)教授らの研究グループは、「人間同様に社会的ストレスがある」とされているマウスを使って社会的順位とうつ様行動との関係を調べた。

研究グループは、研究用ケージにオスのマウスを4匹ずつ入れる実験を2週間行った。誕生後の日数や体重はほぼ同じマウスを選び、観察には赤外線デジタルカメラを使用するなどケージ内のマウスの様子を注意深く観察した。何度か実験を重ね、合計40のケージを観察した。その結果、各ケージ内では時間の経過とともに攻撃的行動をとる支配的なマウスや防御的行動をする従属的マウスが現れてマウスの間に社会的順位ができることが分かったという。

研究グループは次に、観察により判定された社会的順位の高低により行動にどのような差があるかを調べた。具体的には野外の比較的広いスペースでの行動パターンや、水槽内での泳ぎ方などを調べた。その結果、社会的順位が低いマウスは野外での移動距離が短く、水中でじっとしている時間が長いなど、抑うつ的とみられる行動をとったという。研究グループは、こうした行動の差が顕著に出たことから、社会的順位が低いマウスほどうつ様行動をより多く示した、とみている。

研究グループはさらに、攻撃性や不安、抑うつ症状に関係するとされる脳内神経伝達物質のセロトニンについて、マウスの社会的順位の高低でどのような違いが出るか調べた。その結果、順位が低いマウスほどセロトニンの受容体の遺伝子発現が大きく影響を受けていた。この結果を受け、研究グループが影響を受けていたマウスに、うつ病患者の治療に使われる抗うつ剤(「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」)を投与したところ、遺伝子発現への影響が目立って緩和されたという。

研究グループなどによると、日本でのうつ病の生涯有病率は3~7%と高く、うつ病患者の一部は生活環境のストレスなどが発症に関わっている。研究グループは今回の研究成果はうつ病の対処法や治療法確立に役立つと期待できる、としている。

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