東京大学が、分子細胞生物学研究所の教授と元助教の2人が米科学誌のサイエンスや英科学誌ネイチャーなどに発表した5本の論文にデータ捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正行為があった、と認定した。同大学は1日に総務担当の福田裕穂(ふくだ ひろお)副学長らが記者会見して不正行為を発表した。

この2人は渡邊嘉典(わたなべ よしのり)教授と同教授の研究室に所属していた元助教の丹野悠司(たんの ゆうじ)氏。渡邊教授は細胞分裂に伴う染色体の動きの研究で知られる。

発表資料によると、今回不正行為と認定されたのは、細胞分裂の仕組みの研究に関する2008~15年の間にサイエンスなどの科学誌に発表された5本の論文。実際には実験を行わなかったのに、あたかも実験したかのようなグラフを示すといった研究に伴う事実関係での捏造が6件、画像などの改ざんが10件あった。

丹野氏については「責任は免れない」としつつも「渡邊教授の誤った教育・指導による犠牲者の側面もある」としている。東京大学は今後、渡邊教授による他の論文についても追加調査する。分子細胞生物学研究所からは、研究の生データと論文データの照合を厳密に行う、などの不正防止策が提出されているが、同大学としては、追加調査を完了した上で処分内容や大学としての新たな再発防止策を決めるという。

調査委員会の調査報告書は、渡邊教授の研究室では実験ノートの作成や保存の必要性についての教育がされていなかったことや、渡邊教授が自ら画像の不適切な加工を行い、論文のメッセージ性を高めるために加工は積極的に行わなければならない、といった誤った教育、指導が他の研究者に対して行われていた問題点などを指摘している。

東京大学では、医学系研究科の5教授と分子細胞生物学研究所の渡邊教授の計22本の論文についてデータ捏造や改ざんの疑いがある、との匿名の申告が昨年8月と9月にあり、科学研究行動規範委員会が調査委員会を設置して調査していた。医学系研究科の5人の教授については、今回不正行為はなかったと判断された。

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