東京大学(東大)は、黄白色のいわゆるモヤシ的な植物の子葉に蓄積される糖脂質が、光を浴びる前から葉緑体を準備する際の色素の合成やたんぱく質の機能に重要であることを発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院 総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系の藤井祥 博士後期課程2年、同 小林康一 助教、同大大学院 教養教育高度化機構初年次教育部門 広域システム科学系の増田建 教授、同大 大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系の和田元 教授と日本女子大学理学部の永田典子 教授らで構成される共同研究グループによるもの。詳細は米国の学術誌「Plant Physiology」に掲載された。

明るいところで芽生えた植物は、緑色のクロロフィルを蓄積した葉緑体を子葉の細胞内に発達させて光合成を行う一方、暗いところで芽生えた被子植物は、黄白色のいわゆるモヤシの形態となり、光が当たるまで、葉緑体は「エチオプラスト」と呼ばれる前駆的な形態をとり、光が当たるまでその状態で待機している。エチオプラストの内部は蜂の巣状の膜構造が発達しており、そこにクロロフィルの前駆物質と、クロロフィルの合成に必要なたんぱく質、そして葉緑体膜構造(チラコイド膜)の骨格となる脂質が蓄えられ、子葉が光を受けると、前駆物質がクロロフィルに変換されるとともにチラコイド膜が発達し、エチオプラストが葉緑体になることがこれまでの研究から知られていたが、この過程における脂質の役割はよく分かっていなかった。

そこで研究グループは今回、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、糖脂質がエチオブラストにおいてどのような機能をもつかを調査。その結果、糖脂質の合成を抑制すると、蜂の巣構造が不規則で緩んだような構造になること、ならびにクロロフィル前駆体の合成に糖脂質が必要であるほか、クロロフィル前駆体の合成に先立って糖脂質が合成されていなければいけないことを確認したという。

この結果について研究グループは、クロロフィル前駆体の蓄積量が増えすぎると、光があたった際に活性酸素が発生することが知られているため、同前駆体の合成量を厳密に調整するために、先に安全な膜環境を糖脂質を合成することで整える仕組みをシロイヌナズナは有しているのではないかと推測されると説明している。

なお、今回の成果について研究グループでは、植物が葉緑体を発達させる仕組みを解き明かす上で、重要な一歩となるだけでなく、今後、植物が光エネルギーを利用しつつ安全かつ効率的に成長するうえで必要な仕組みを理解することにつながることが期待されるとコメントしている。

クロロフィルの合成には糖脂質の豊富な膜環境が必要となる。糖脂質が豊富の場合、膜上での反応がスムーズに進行するが、糖脂質が少ないと、これらの反応が阻害される (出所:東大Webサイト)