富山大学は7月31日、ワクチン作用の増強に重要な自然免疫受容体トール様受容体4/MD-2複合体を活性化する物質を発見、その作用を解明したと発表した。

同成果は、富山大学大学院医学薬学研究部(医療)免疫バイオ・創薬探索研究講座の岡本直樹 研究員、長井良憲 客員教授、髙津聖志 客員教授らによるもの。詳細は米国科学誌「The Journal of Biological Chemistry」に掲載された。

ワクチンには無毒化もしくは弱毒化した病原体の物質が入っており、これを投与することで、感染症と類似の状況を作り、抗体を作ることをリンパ球に促す。しかし、これだけでは抗体を効率よく作ることができないため、アジュバントと呼ばれるワクチン作用を強める物質を一緒に投与する必要がある。しかし、アジュバントには細菌の毒素由来の物質もあり、ワクチンの副作用の原因ではないかという指摘もあることから、ワクチン作用を強めると共に、安全性の高いアジュバントの開発が求められている。

同研究グループは、アジュバント作用を発揮するのに重要なパターン認識受容体TLR4/MD-2を発現する細胞を用いて、約1,300個の化合物、天然薬物をスクリーニングしたところ、土壌菌の抽出物にマウスのTLR4/MD-2を活性化する作用を発見したとする。また、抽出物の成分を解析した結果、抗生物質の1種であるフニクロシンの還元物質「FNC-RED」がマウスTLR4/MD-2を活性化する本体であることを確認したという。

細胞を用いたTLR4/MD-2の活性化剤のスクリーニング系(出所:富山大学Webサイト)

ただし、FNC-REDはヒトのTLR4/MD-2を活性化しないことも確認。そこで、さらにヒトへの医療応用を目指し、FNC-REDを基にした類縁物質の化学合成を行うことで、ヒトのTLR4/MD-2 を活性化することができる類縁物質「FNC-RED-P01」を合成することに成功した。シミュレーション解析の結果、このFNC-RED-P01にはリン酸基の修飾があり、これによりヒトのTLR4/MD-2に結合しやすくなったと考えられるとしている。

化学合成によるヒトTLR4/MD-2を活性化する物質の創出(出所:富山大学Webサイト)

なお、研究グループは、これらの物質は細菌毒素ではなく、また強い炎症反応をひきおこさないため、今後の研究開発により、これらを基にした副作用が少なく安全性が高いアジュバント開発につながることが期待されるとしている。