【レポート】

未来の深海の探査船は有人か、無人か-海洋研究者が語る「魅惑の深海探査」

7月26日、東京大学生産技術研究所にて、深海探査に長らく取り組んできた2人の著名研究者によるトークイベント「海の日記念 サイエンストーク 地球最後のフロンティア「深海」に研究者は何を見る? ~魅惑の深海探査の謎にせまる~」が行われた。

登壇者は、浦環 氏と、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の高井研 氏(深海・地殻内生物圏研究分野長)。どちらも、長く深海の理学と工学に関わってきた2人だ。トーク内容は、それぞれの専門分野から見た海洋科学トピックスのプレゼンテーションから始まり、深海探査の持つポテンシャル、現状の課題、そして未来について語り合う濃密な時間となった。

ラ・プロンジェ深海工学会 代表理事/東京大学名誉教授/九州工業大学社会ロボット具現化センター センター長などを歴任する海洋ロボットの第一人者・浦 環(うら たまき)氏

海洋研究開発機構(JAMSTEC) 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長 高井 研(たかい けん)氏:専門は、超好熱菌の微生物学、極限環境の微生物生態学、深海・地殻内生命圏における地球微生物学など多岐にわたる

海洋調査は大航海時代からIoTの時代へ

イベントの最初にマイクを握ったのは、高井氏。「深海には生命の限界や起源を知る手掛かりがある」といい、深海熱水域に生命の起源を探し、数々の極限環境から微生物を発見することで実証していることを語った。将来は、宇宙における生命誕生の原理の解明にまで迫りたいという。

続いて、浦氏にマイクがわたり、これまでの研究成果を話した後、「19世紀的、大航海時代的海洋調査からの大転換」と題し、従来のような調査船に頼らないDrifter展開構想を紹介した。これは、同氏が長年力を入れている、自律型ロボットの複数展開をさらに進化させたもので、無線の飛行機によって、無線の調査機を海に展開し、無人船から遠隔操縦をすることで調査を行うという内容であった。「これからは大航海時代ではなく、IoTの時代」と語った。

大航海時代的海洋調査からIoTへ

未来の深海の探査船は有人か、無人か

各自のプレゼンテーションの後は、「バトルトーク」と題した対談コーナーが設けられ、高井氏、浦氏が舌戦を繰り広げた。中でも白熱したのは、「しんかい10000は必要か?」というトピック。つまり、水深1万メートルまで潜航可能な有人潜水艦は必要か否か?ということだ。

このトピックでは、自身も有人潜水艦で調査に挑んだこともある高井氏は「有人」派、海中探査ロボットの父である浦氏は「無人」派という立ち位置をとった。

有人の探査船について話す浦氏と高井氏

「無人派」の浦氏は「有人潜水艦は"金持ちの道楽"」と刺激的なフレーズをあえて出した上で、非常にコストがかかるため、限られた予算の中で開発することには反対という意見を示した。その一方で、「深海の様子を実際に目にするのは大切。現物が放つオーラを見ることで"変身"した人がイノベーションを牽引する」と、有人潜水艦の利点は認め、「"変身"できるのは老人ではなく若者。だから高校生を深海に連れて行くような試みは賛成だが、そうでないものは必要ない」と断言した。

高井氏は、「浦先生がおっしゃったのは僕が以前別のところで言ったことと被っているので反論はないのですが(笑)」と前置きした上で、「新時代のスターを生むには"変身"は不可欠だが、誰もができるわけではないので、できる限り多くの若者を深海に連れて行きたい」とコメント。JAMSTECで現在進行されている有人潜水艦「しんかい12000」は「(同機構が)競争的に開発する最後の有人潜水艦」であり、これ以降は深く潜ることを追求するのではなく、比較的浅い潜水能力の代わりに機動力を持ち、多人数を載せられる有人潜水艦を作ることで、"変身"する若者を多く輩出し、国内の深海探査分野にイノベーションが起こせればと語った。

有人潜水艦に乗り、"変身"した人がイノベーションを起こす

イベントの後半では質問コーナーが設けられた。特に会場が盛り上がったのは、長崎県の小学6年生からの質問。「浦先生がトークバトル中に『有人探査船はいらない。私は無人探査派なんです』と話したのを聞いて少し寂しく感じました。お金や技術的な話はよくわかりませんが、有人の探査船は、浦先生では作れないから無人派と言っているのですか?」というものだった。

これに対し、浦氏は「そうです。私は作れません!(笑)」と返答。「もちろん、技術的な話だけではなく、予算の問題もある。JAMSTECの予算は、300億程。もし有人潜水船を作ろうとすると、ほとんどの予算がそれにかかってしまう。そうすると他の研究が止まってしまうため、費用を抑えるためにも、無人で探査が行えるように解決法を見出していきたい」とつなげた。

それを受け、有人探査船派の高井氏は「300億の予算を分けるんじゃなくて、予算を1000億にするくらいの気概を持ってやっていきましょう(笑)」と応酬した。それに続けて「日本の立地は、海、さらには超深海海溝にも囲まれており、非常に海洋研究に適している。日本が、どの技術、あるいは科学を進めれば、世界の中で独自性が出せるか。それは間違いなく海洋だ」と今後の研究の発展への期待を語った。

海底に突き刺さった潜水艦は「伊58」か

浦氏はイベントの最後に、自身が進めているプロジェクトについて語った。同プロジェクトは、1946年に海没処分された24隻の潜水艦のうち、「伊58・呂50」の2隻を特定することを目標としたものだ。第一弾として2017年5月19日~21日に、曳航式のサイドスキャンソナーを用いた調査を行った結果、海底に垂直に突き刺さった潜水艦を発見している。

海底に突き刺さった潜水艦は「伊58」か

そこで、2017年8月には遠隔操縦式の無人潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)を使ったより詳細な調査を行おうとしており、そのための費用をクラウドファンディングで募っている。

浦氏は「将来的には、撮ってきた写真から、VRを作製し、ミュージアムを作りたい。VRで見ることで、現物を目の前で見ているように感じてもらい、先人たちがやってきたこと、あるいはそこに関係する方々が何を考えてきたかといったことを感じられるようなメモリアルにしたい」と語った。クラウドファンディングのページは、こちらから。

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