富士通ならびに富士通研究所は7月24日、W帯(75GHzから110GHz)を用いた大容量の無線ネットワークに適用可能な、GaN-HEMTを用いた送信用の高出力増幅器(パワーアンプ)を開発したことを発表した。

今回開発されたW帯GaN-HEMTパワーアンプのチップ写真

同成果の詳細は、、7月24日から28日までフランスで開催される窒化物半導体に関する国際会議「12th International Conference on Nitride Semiconductors(ICNS-12)」にて発表される予定だという。

無線ネットワークは、帯域の空き問題などから高周波の活用が模索されており、そのうちの1つであるW帯も、電波を使用できる周波数帯の幅が広く、通信速度を高めることができるため、活用が期待されているが、無線通信として実用化を図るためには、伝送距離の長距離化や大容量化を実現するためのパワーアンプの高出力化が高い電力効率を維持しながら実現することが求められていた。

今回の研究では、InAlGaN系HEMTを用いて、抵抗および漏れ電流の低減に向けて内部抵抗を低減する技術、ならびに漏れ電流を抑制する技術を開発。これらにより、ソース電極・ドレイン電極とGaN-HEMTデバイス間に電流が流れる際の抵抗を、安定して従来の10分の1に低減できることを確認したほか、InGaNからなる障壁層を電子走行層の下方に配置することで、高いドレイン電流を維持したまま、動作時の迂回電子を低減することに成功。漏れ電流の低減に成功したという。

GaN-HEMTデバイスの断面構造イメージ。右が今回開発された構造

この結果、W帯における送信用パワーアンプの出力密度は、94GHz帯での動作時に、ゲート幅1mmあたり4.5W(従来は3.6W)に高めることに成功したほか、漏れ電流が低減したことから、従来技術比で26%減となる低消費電力化も実現したとする。

トランジスタ性能の比較。右が今回開発されたInAlGaN-HEMTの性能

なお、同社では、同パワーアンプを用いることで、2地点間を無線通信システムでつなぐ場合に、10km以上かつ10Gbps以上の長距離・大容量通信を実現できる見込みだとしており、2020年度の実用化を目指すとコメントしている。