分子科学研究所(分子研)などは7月20日、高エネルギーの電子が光渦と呼ばれる特異な光を放射する現象を精密に観測することに成功したと発表した。

同成果は、分子科学研究所 加藤政博教授、広島大学 佐々木茂美名誉教授、名古屋大学 保坂将人特任准教授らの研究グループによるもので、7月21日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

光渦は、螺旋状の波面を持ち、軌道角運動量を運んでいるものと考えられており、物体に照射されるとトルクを与えることが実験的に検証されている。また、原子や分子などに照射されると、通常の光では起こらないような光反応を引き起こす可能性があると考えられている。人工的に光渦を合成する手法はすでに確立されているが、自然科学の分野では光渦に関する研究はこれまでほとんど行われていなかった。

これまでの研究において、アンジュレータと呼ばれるシンクロトロン光発生装置から放射される光に光渦の成分が含まれている可能性が示されており、また、円軌道を描いて運動する電子の放出する光は光渦であるということが理論的に示されていた。ドイツの研究グループが、過去に実験的にこれらの検証を試みているが、理論的に予想される光渦放射の重要な特性の多くが未検証のままとなっていた。

そこで今回、同研究グループは、分子科学研究所のシンクロトロン光源「UVSOR-III」を用いて、光渦の精密観測を試みた。この結果、ダブルスリットを用いた回折実験により、倍波の中心に位相特異点と呼ばれる構造ができていることを観測。また、基本波や倍波を同時に発生してこれらを干渉させることで、振動数の高い倍波ほど波面の渦構造が密になっており、大きな角運動量を運んでいることを示唆する結果を観測することに成功した。

ダブルスリット回折実験結果。円軌道を描く電子が放射する光を、ダブルスリットを通すと、基本波からは直線状の回折模様が生じるが、二倍波(光渦)では中心付近にゆがみを伴う回折模様が生じる。これは光の中心に、光の位相が急激に変化する位相特異点が存在することを示している (出所:分子研Webサイト)

さらに、高エネルギー電子が光渦を放射する機構に関して理論的な考察を行い、電子からの放射が電子の進行方向に集中するという相対性理論の効果により、この現象が説明できることも明らかにしている。これらの結果は、円軌道放射という自然界で極めて一般的にみられる現象によって光渦が放射されることを示したものといえる。

今回の成果について、同研究グループは、基礎学術研究から産業利用まで広く利用されているシンクロトロン光の新しい利用法の開拓に結び付くものであると説明している。