京王電鉄が7月19日に公開した新型車両5000系。ロングシート・クロスシートに転換可能な座席を備え、9月29日からロングシートで通常列車として運行開始し、2018年春からクロスシートを活用した有料の座席指定列車での運行が予定されている。同社初という装備も多数搭載され、快適性向上とさらなる省エネ推進が図られた。

京王電鉄の新型車両5000系。9月29日から通常列車で運行開始予定

7月19日の撮影会(報道公開)では、車両内覧・撮影に先立ち概要説明が行われ、主要諸元などを記した資料も配布された。新型車両5000系の車体はステンレス鋼製、先頭部はFRP製で、総合車両製作所製「sustina」構体の採用により、外板接合部のレーザー溶接化、側出入口の外フレームのインナーフレーム化など、外板面の平滑化による美観向上を実現している。衝突対策として、側面から衝突を受けても車体の変形を抑制し、乗上げ衝突が発生しても構体同士が離反する構造としており、安全性向上も果たした。

新型車両5000系の編成は「Tc1」「M1」「M2」「T1」「M1'」「M2'」「T2」「M1''」「M2''」「Tc2」とされる。車体長は先頭車20,440mm・中間車20,000mm。幅2,800mm、高さ(パンタ無)4,017mmは先頭車・中間車ともに共通(中間車のパンタ有高さ4,090mm)。自重は先頭車「Tc1」「Tc2」29.8~30.2トン、中間車「M1」「M2」「M1'」「M2'」「M1''」「M2''」34.0~36.3トン、「T1」「T2」26.7~26.8トン。1両あたりの座席定員は先頭車39名・中間車45名。立席も含めた1両あたりの定員は、先頭車がクロスシート時115名・ロングシート時119名、中間車がクロスシート時126名・ロングシート時130名となっている。

車体の先頭部はFRP製。シャープな前面形状となった

車体は「つぎはぎ感」がなく、なめらかで美しい仕上がり

標識灯ユニット(前照灯・尾灯・装飾灯)にはLED灯を採用

車内はドア間がL/C座席(座席幅460mm)、連結部付近が3人掛け固定座席(座席幅505mm)に。各座席に電源コンセントも設けた(座席指定列車の運行時に使用可)

乗務員室はグレー系の配色でまとめた。液晶方式を採用した3画面構成の運転台表示パネルで視認性向上を図っている

乗務員室は乗務員の操作性に配慮した設計とし、運転台はユニット構造にて総合車両製作所オリジナルのフリージアコンソールを採用。運転台表示パネルは3画面構成(メーター表示器×2、K-TIMS×1。三菱電機製)で、液晶方式による視認性向上を図った。列車情報管理装置(K-TIMS)は都市圏の通勤電車に多くの実績があるTIMSをベースとした構成としており、アプリケーション機能の二重化による冗長性を確保し、10Mbps伝送を採用した。

台車(総合車両製作所製)は京王電鉄9000系用をベースとしたボルスタレス台車で、軸箱支持装置は軸梁方式、車体支持装置は車体直結式空気ばね方式および一本リンク式牽引装置、基礎ブレーキ装置は踏面片押し式のユニットブレーキとのこと。台車中心間距離は13,800mm。さらなる乗り心地の向上のため、台車枠先端部に軸ダンパを取り付けられる構造となっている。設計最高速度は将来の速度向上も考慮して130km/hに。加速度は3.3km/h/s、減速度は通常時4.0km/h/s、非常時4.5km/h/sとなる。

駆動装置(東洋電機製造製)は「平行カルダン式(TD継手)・歯車比85/14=6.07」とされており、駆動装置を京王電鉄9000系と同一として共通化を図る一方、新幹線のグリーン車で採用実績のあるTD継手(これまでの継手より約5db低い値を実現)を採用し、静粛性を高めている。主電動機(日立製作所製)は「三相誘導電動機(全閉内扇型)」で150kW。補助電源装置(東洋電機製造製)は「静止型インバータ(待機二重系)・260kVA、440V、60Hz : 2台/編成」で、冗長性を強化させた。ブレーキ装置(ナブテスコ製)は「回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(HRDA-1) 応荷重機能付き、保安ブレーキ、耐雪ブレーキ」。既存のアナログ電流制御方式からON/OFF制御に変更されたという。

自動列車制御装置には「京王ATC車上装置」(京王線用保安装置、京三製作所製)・「東京都D-ATC装置(TASC装置付き)」(都営新宿線用保安装置、日立製作所製)を搭載。列車無線装置は「空間波無線装置(京王・都)・列車情報装置(列番装置)・車内中継放送付き」、警笛は「空気式・電子式・足踏操作器(2段踏方式・電気接点付き)・ミュージックホーン付き」とのこと。放送装置(八幡電器産業製)は「自動音量調節機能付き分散アンプ式高音質ステレオタイプ(自動放送機能・BGM機能・車外放送機能付き)」で、車内アナウンスや座席指定列車での到着前メロディなどを聞き取りやすくするため設置された。

新型VVVFインバータ制御装置と車上蓄電池システムでさらなる省エネ化達成へ

制御装置については「IGBT VVVFインバータ制御(ベクトル制御方式) 回生制動付き・車上蓄電池システム付き」とされており、日立製作所製のSiCハイブリッドモジュールVVVFインバータ装置(1C4M×2群構成、6M4T)を搭載している。

京王電鉄初採用となる車上蓄電池システムは、ブレーキ時に発生する回生電力を吸収し、走行時に使用することで使用電力の低減を図るほか、他車両の回生時の余剰電力を吸収することで、路線全体の回生ブレーキ率を向上させるという。停電などにより駅間で停車した際も、バッテリユニットから充放電制御装置を介し、VVVFインバータ装置を起動させることで、1ユニット8個モータ(2M8T)での自力走行が可能(勾配・蓄電量など条件付き)となる。主要諸元によれば、車上蓄電池は「リチウムイオン電池・電池モジュール4直列4並列使用・680V、15.2kWh(新製時) : 2台/編成」とのこと。

車上蓄電池の外観。5号車の床下に設置されている

車上蓄電池システムのしくみ(ブレーキ時)

車上蓄電池システムのしくみ(走行時)

撮影会(報道公開)では、京王電鉄車両電気部の若松茂則氏が各種設備について説明。設計にあたっての考え方として、「既存車両からのグレードアップ」に加えて「さらなる省エネ化の達成」も柱に挙げた。「当社は現在、旅客用の全車両にVVVFインバータ制御装置を搭載しており、2012年度から新型VVVFインバータ制御装置への更新も進めています。これは昭和40年代にデビューした6000系の約3割の電力で走れる装置で、同じ制御装置を新型5000系にも搭載しました。さらに省エネ化しようと車上蓄電池システムを導入し、当時活躍した車両の3割以下の電力で走ることをめざしています」と若松氏は言う。

新型車両5000系の最大の特徴は車内のL/C座席で、通常の運用時はロングシート、座席指定列車時はクロスシートと運用に合わせて転換可能。良質な座り心地も追求し、さまざまなシーンで活躍できる次世代の通勤車両を実現したという。京王電鉄広報部の杉浦昌平氏は、来年春から運行開始予定の有料の座席指定列車について、「近年、私鉄各社も導入しており、お客様の着席ニーズも高まっていることを受け、導入することとなりました。投資額は約100億円となります。有料座席指定列車は当社として初めて実施する施策で、今後もお客様への周知を図りたい」と説明した。

新型車両5000系は営業運転開始前の9月17日に試乗会を行い、9月29日からロングシートで通常列車として運行開始する。今年4~5月に試乗会への参加応募の受付と座席指定列車の愛称投票が行われ、愛称候補として「京王ライナー」「京王スマートライナー」「京王プライムライナー」「Luxpress(ラクスプレス)」「WESTAR(ウェスター)」が挙げられていた。2018年1月に愛称が決定し、あわせて停車駅・料金も発表予定とのことだった。

有料の座席指定列車は2018年春から運行開始し、平日・土休日の夜間に新宿発京王八王子行・新宿発橋本行の運行を予定している。京王電鉄は今年度、新型車両5000系の導入に加え、座席指定列車の運行開始に向けた座席管理システムの導入も進めるとしている。