東北大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は7月20日、2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の震源となった日本海溝沿いの海域において行った約4年間の海底地殻変動観測により、東北沖地震後に進行している地殻変動の空間変化の特徴を明らかにしたと発表した。
同成果は、東北大学災害科学国際研究所 木戸元之教授、同大学院理学研究科 日野亮太教授、太田雄策准教授、同大学院生の富田史章氏、JAMSTEC 飯沼卓史研究員らの研究グループによるもので、7月19日付けの米国科学誌「Science Advances」に掲載された。
陸上の地殻変動観測にはGPSなどの衛星システムを用いた測位技術が用いられるが、衛星からの電波が届かない海底では利用できない。東北大学は、海底にある基準点の位置を音波によって測量するとともに、観測に用いる船またはブイの位置をGPS測位によって決定することで、海底基準点の位置を精密に決定する技術「GPS-音響結合方式海底地殻変動観測」を開発してきた。
今回の研究では、海溝型巨大地震の発生後に観測される「余効変動」と呼ばれる特徴的な地殻変動の空間変化と時間発展とを正確に把握するため、同技術を用い、東北沖の海底に地震後新たに設置した20点の海底基準点において、東北海洋生態系調査研究船「新青丸」や深海潜水調査船支援母船「よこすか」などの船舶を用いた繰り返し観測を実施。具体的には、2012年9月~2016年5月にかけて、各基準点で3~7回の観測を実施し、得られたデータを解析することで該当期間における平均変位速度を推定した。
この結果、地震時に大きな断層すべりが生じた宮城県沖では年間10cm以上の顕著な西向きの変動、その北側では年間5cm以下の小さな変動、南側では年間10cmに及ぶ東向きの変動がそれぞれ得られた。宮城県沖での動きは巨大な地震時すべりが引き起こした「粘弾性緩和」によって、南側の福島県沖での動きは2011年以後にプレート境界がゆっくりとすべり続ける「余効すべり」によって説明されることから、東北沖の海底下で異種の変形メカニズムが同時に進行していることが示されたといえる。
一方で、北側の岩手県沖の海溝近傍でも、宮城県沖に似た西向きの動きが観測されることから、粘弾性緩和の原因となる地震時の断層すべりは、宮城県沖にとどまらず岩手県沖の一部にまで及んでいた可能性も示唆されている。
同研究グループは今回の成果について、6年前の東北沖地震発生のメカニズムの理解が一層進むとともに、東北地方におけるこれからの地震活動を予測するうえで重要な手がかりが得られたとしている。