理化学研究所(理研)は、同所環境資源科学研究センター機能開発研究グループの中野雄司専任研究員、山上あゆみ研究員、篠崎一雄グループディレクター、東京大学大学院農学生命科学研究科の浅見忠男教授らの共同研究グループが、植物細胞の伸長を促進する新しいタンパク質「BIL4」を発見し、BIL4が植物ステロイドホルモン「ブラシノステロイド」のシグナル伝達を介して、植物細胞の伸長を制御する仕組みを明らかにしたことを発表した。この成果は7月18日、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

bil4変異体のスクリーニング(探索)の原理(出所:理研Webサイト)

ブラシノステロイドは、植物の成長を促す上で重要な役割を持っているが、非常に高価なため農業や植物バイオマスの増産に直接利用されていない。また、ブラシノステロイドが植物内でどのような「シグナル伝達」を行っているかはよくわかっていない。

共同研究グループは、ブラシノステロイドの生合成を自在に制御できる阻害剤「ブラノシナゾール(Brz)」を用い、ケミカルバイオロジーによる実験を行った。その結果、ブラシノステロイドのシグナル伝達を活性化し、制御するタンパク質「BIL4」を発見した。

シロイヌナズナの野生型とBIL4が高発現した場合との草丈の違い(出所:理研Webサイト)

ケミカルバイオロジーとは、化学物質の力により生命の仕組みを明らかにする研究手法で、生物の形態やタンパク質の働きに対して生理活性を示す小分子化合物を有機合成により作製し、それを用いて標的タンパク質の同定や機能解明を行う。

BIL4は、細胞膜を7回貫通する構造をした膜タンパク質で、その細胞内での動きを調べたところ、エンドソームにおいて、ブラシノステロイド受容体「BRI1」と相互作用することがわかった。タンパク質BIL4が発現していないときは、BRI1は細胞膜に主に局在しているが、一部はエンドサイトーシスで細胞内のエンドソームに取り込まれたのち、液胞に運ばれて分解される。

一方、細胞伸長の極初期の細胞ではBIL4が発現し、BRI1のエンドソームから液胞への輸送と分解が妨げられる。その結果、細胞内のBRI1の量が増加し、ブラシノステロイドのシグナル伝達が活性化され、細胞の伸長が促される。

シロイヌナズナの野生型とBIL4が低発現した場合の草丈の違い(出所:理研Webサイト)

この研究によって得られたBIL4の遺伝子情報と知見を活用することによって、植物細胞の伸長を自在に制御する技術を開発することが可能になると考えられる。研究グループは、BIL4遺伝子がイネやトウモロコシなどにも広く保存されていることから、これらの実用化作物におけるBIL4遺伝子の研究・発展が、地球環境の保護や食糧増産に貢献すると期待できると説明している。

BIL4によるBRI1の分解抑制モデル(出所:理研Webサイト)