東京大学(東大)は7月18日、見る方向や光の偏光方向によって色が劇的に変化する、レニウム(Re)を含む新物質の合成に成功したと発表した。

同成果は、東京大学物性研究所 平井大悟郎助教、廣井善二教授らの研究グループによるもので、7月17日付けの米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

無機化合物には、電子がエネルギーのより高い軌道に励起されるときに特定のエネルギーをもつ光を吸収し、発色するものがある。たとえばルビーは、コランダムという透明な鉱物のなかに遷移金属元素のクロムが微量に含まれたものであり、クロムの3d電子が光によって励起される際に、緑色の光を吸収するため、緑の補色である赤色になる。3d遷移金属化合物は非常に種類が多く、多彩な色を示す無機材料として顔料などに使用されている。一方、原子番号のより大きな4d遷移金属元素や5d遷移金属元素の化合物は研究例が少なく、その機能性は未開拓のままとなっている。

今回、同研究グループは、5d電子をもつ元素としてレニウムを含む新物質Ca3ReO5Cl2の合成に成功した。同物質の色は、見る方向によって緑から茶色に変化し、入射光の偏光により、赤・黄・緑の3つのまったく異なる色を示すという。

多色性を示すCa3ReO5Cl2の結晶 (出所:東大物性研Webサイト)

光学特性を詳細に調べることにより、レニウムの5d軌道にひとつだけ存在する電子がエネルギーの高い空の5d軌道へ励起されるときに可視光を吸収することがわかった。また、レニウムの軌道状態を計算した結果、軌道の対称性と光の偏光方向の関係によって光の吸収が選択的に起こるため、偏光方向によってまったく違う色を示すことが明らかになった。さらに、これらの性質を示すための条件のひとつとして、レニウムの周りの酸素がピラミッド型に結合し、その反対側に塩素イオンがあることが重要であることもわかっている。

今回の成果について、同研究グループは、今後より強い色の変化や異なる色の変化を示す物質を開発するための指針を与えるものと説明している。

レニウムの5d軌道の配列と光吸収の模式図。光の偏光方向と軌道の対称性によって、吸収される光のエネルギーが変化する (出所:東大物性研Webサイト)