京都大学は、チンパンジーの脳梁を真横から見た断面積がどのように発達していくのか、その過程を明らかにしたと発表した。

右側からみたチンパンジーの脳梁。7つの領域に分かれる。1(赤)=rostrum、2(緑)=genu、3(黄)=rostral body、4(青)=anterior midbody、5(マジェンダ)=posterior midbody、6(シアン)=isthmus、7(白)=splenium(出所:京都大学プレスリリース)

同研究は、京都大学霊長類研究所研究員の酒井朋子(現ジョンズ・ホプキンス大学海外特別研究員)、友永雅己教授らの研究グループと、中部学院大学、金沢大学、慶應義塾大学、ジョンズ・ホプキンス大学の共同研究によるもので、同研究成果は、6月27日に米国のオープンアクセス誌「PLOS ONE」に掲載された。

同研究では、ヒトの脳が生後初期にどのように成⻑するのか、また、ヒトとヒト以外の霊⻑類における脳構造の発達様式を比較し、高次脳機能がどのように進化したのか、を紐解くため、大脳半球を結ぶ神経の束であり、感覚や運動、認知などの多様な神経機能と関連する脳梁の発達を断面積の変化から検証した。これまでの研究から、ヒトの場合乳児期に脳梁の断面積が急速に拡大し、それ以降ゆっくりとした変化を示す一方、チンパンジーの場合は子ども期から老年期にかけて穏やかに変化することが分かっていた。しかし、乳児期の発達の様子は報告がなかったため、生後6歳より幼い個体を対象とした研究を行う必要があった。

同研究チームは、アユム、クレオ、パル、ピコという4人の子どもチンパンジーを対象に、MRIを用いて1.8ヶ月~6歳にかけて脳梁の断面積がどう発達していくのか調べた。その結果、チンパンジーでもヒトと同様に乳児期を通して面積が2~3倍になる急速な成⻑を見せ、その後ゆっくりと変化することが分かった。一方、脳梁の上方に位置する脳梁吻側体部(rostral body)はチンパンジーよりもヒトの方が大きく増加すること、脳梁の前方に位置する脳梁吻(rostrum)では逆にチンパンジーの方が大きく増加すること、という違いもあった。

脳梁吻側体部は行動制御、言語記憶、数概念に関わる領域である一方、脳梁吻は注意制御に関わることが報告されている。今回の研究を通して、チンパンジーとヒトの脳梁の発達の違いは、人類進化に伴う脳システムの進化的変化と関連していることが示唆されたということだ。

なお、今回の研究の特筆すべき点として、身体障害(脊髄圧迫)を持ったピコの脳データを公表したことが挙げられるという。ピコは下半身の麻痺と慢性の腎機能不全を伴っており、肺炎により2歳で亡くなったが、ピコは生前チンパンジーコミュニティーの中で、母親のプチによって育てられていた。今回確認できた範囲では、ピコの脳に顕著な異常は検出されず、また、ピコを含めた4人の脳梁発達の推移は同程度で、大きく異なる点は無かったということだ。