【コラム】今夏最大の騒動?…ビトーロのアトレティコ移籍はなぜ実現したのか

セビージャからアトレティコ・マドリードへ移籍したビトーロ [写真]=Getty Images

 早くもこの夏、後世に語り継がれるであろうひとつのストーリーが生まれた。ストーブリーグでは毎年物語が生まれるが、今夏最も注目を浴びる移籍劇はスペイン代表FWビトーロかもしれない。レアル・マドリードからバイエルンに突如レンタル移籍することが決まったコロンビア代表MFハメス・ロドリゲスよりも、スペインで大きな注目を集めた。

 ビトーロは昨シーズン、セビージャには欠かせない戦力となり、スペイン代表でもスタメンで活躍するサイドアタッカーへと進化した。今夏はスペイン国内だけでなく、欧州のビッククラブが狙っていると地元メディアで名前が何度も挙がる旬な選手だ。

 アトレティコ・マドリードは、7月12日にビトーロと契約を結んだことを発表した。そして、アトレティコ・マドリードは今夏、FIFAの補強禁止処分により、選手を新たに登録できないため、処分が解かれる1月まではラス・パルマスへレンタル移籍することも発表された。

 アトレティコ・マドリードはビトーロの獲得を熱望しており、シーズン終了後からずっと彼の名前は挙がっていた。ゆえにセビージャからアトレティコ・マドリードへの移籍が決まっただけならば、予想できたことなので、大きなニュースとはならない。では、なぜこのニュースがスペインで騒がれているのか。その移籍決定までの過程が我々の考える“普通”ではなかったからだ。

 セビージャのホセ・カストロ会長は、10日に行われた新入団選手の会見の席で、ビトーロとの契約を2022年まで延長することを認めた。同会長はその日の夜、地元ラジオ番組でも電話でインタビューに応じ、ビトーロの契約延長と残留を公言した。

 しかし、1日で状況は劇的に変わった。

 ビトーロは11日にマドリードへ移動し、かねてから彼に関心を寄せていたアトレティコ・マドリードと話し合いの場を持ち、そして12日にスペインプロリーグ機構に選手自身が足を運び、セビージャとの間で設定されている違約金3600万ユーロ(約46億円)を支払い、フリーの身となった。そして、その後アトレティコ・マドリードと5年契約を結んだ。もちろん違約金は後にアトレティコ・マドリードからビトーロに支払われるか、もしくは先に与えていたのだろう。

 カストロ会長は11日、契約延長について「私たちは書類上で合意に達している。昨日、彼の代理人、そして彼の父親が書類にサインをした。選手はセビージャにいなかったが、今日彼がサインすることを期待している」と話していたが、ビトーロはその時、すでにマドリードに向かっていた。つまり10日の時点で会長は残留を公言してしまったが、ビトーロはサインをしていなかったため、正式には契約延長が成立していなかったのだ。

 翌12日、カストロ会長は「ビトーロはアトレティコ・マドリードからさらにお金を引き出すためにセビージャを利用した」と批判し、FIFA(国際サッカー連盟)に訴えることを示唆した。またこの騒動の責任をとり、副会長が辞任した。

 一方のビトーロは生まれ故郷であり、自分がプロフェッショナルとなった古巣でもあるレンタル先のラス・パルマスに到着すると、「とても満足しているし、幸せだ。最近はとても厳しい日々だったけど、最終的にはここにいることに決めた」と空港で話し、翌日に行われた入団会見では「僕はセビージャと契約延長間近だったが、いくつか足りなかった。アトレティコは、僕の能力にとても強く賭けてくれた」と話し、「僕はここで自分のポジションを勝ち取り、そしてチームを助けるために来た。ほかのチーム(アトレティコ・マドリード)と契約しているからといってここで自分の力を温存することはない」と語った。また故郷で幼少期から友だちである選手とプレーできるという喜びをこう表現した。

「ジョナタン・ビエラと僕の夢は自分たちの故郷チームで2人一緒に1部でプレーすることだった」

 また、セビージャについてはこうコメントした。

「セビージャには実際にすべてを捧げた。タイトルを勝ち取り、誰よりもユニフォームを汗で濡らした。この状況の後でも僕はセビージャで自分が与えたことが記憶に残っているし、クラブとサポーターには感謝の言葉しか持っていない」

 ビトーロの移籍は、なぜ騒動となったのか。正式に契約延長が決まる前にカストロ会長が公言をしてしまったからか。ビトーロがセビージャをアトレティコ・マドリードとの交渉の材料として使ったように感じられるからか。

 セビージャを本拠地とするスペイン紙『エスタディオ・デポルティーボ』のビトーロに関するコラムに、「(前セビージャSDの)モンチは“交渉はサインするまで何が起こるから分からない”と言っていた」という記述があった。敏腕SDのモンチが去った影響か。今回の騒動も含め、セビージャはぐらついているようだ。

 今夏、マルセイユへ移籍したフランス代表DFアディル・ラミは自身のインスタグラムで新クラブの入団会見の写真とともに「セビージャのディレクターは交渉の最後にとても悪いことを行った。恥すべきことだが、これもサッカーだ」と痛烈に批判した。もし仮にまだモンチがいれば、同じ事が起きているだろうか。

 リーガ・エスパニョーラの日程はまだ発表されていないが、ビトーロがラス・パルマスの選手として、もしくはアトレティコ・マドリードの選手として、セビージャの本拠地サンチェス・ピスファンに戻った時、スタンドはどんな風に迎えるのだろうか。

 ビトーロと契約したアトレティコ・マドリードは、今夏にエースのフランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンとの契約延長に成功した。移籍が数多く噂されたフランス人ストライカーは、今夏に補強禁止処分を受けているクラブのことを考え「アトレティコ・マドリードにとって困難な時で、今退団するのはクラブに対して不当な仕打ちだ」とコメントし、ロス・コルチョネロス(アトレティコの愛称)を沸かせた。夏にもこのように美しい物語はある。

文=座間健司


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