空から降ってくる雨や雪の原料は、大気中の水蒸気だ。水蒸気をたっぷり含んだ空気が上昇すると、温度が下がってその水蒸気を含みきれなくなる。すると、余分な水蒸気は空中の小さなちりなどにくっついて水や氷になり、地上に落ちてくる。それが、雨や雪だ。したがって、大気にたくさん水蒸気が含まれていれば、なにかの拍子に、たとえば風が山に当たって空気が斜面を駆け上がったり、上空で冷たい空気に出合ったりしたとき、激しい雨や雪に見舞われやすくなる。

図 大気に含まれている水蒸気量の概念図。気温が高い場合(右)は、気温が低い場合に比べ、水蒸気をたくさん含む空気が高い高度まで広がっている。「可降水量」とは、地表面からはるか上空までの大気に含まれている水蒸気の総量。(藤田さんら研究グループ提供)

空気の温度が上がれば、含むことのできる水蒸気の最大量は増える。地球温暖化が進むと極端な豪雨が増えると予想されており、そのためにも、大気中の水蒸気量と気温の関係を、きちんと把握しておくことが大切だ。

大気中の水蒸気量については、気温が上がったときの増え具合が、理論的な推定より多い場合があることが、これまでにも指摘されていた。だが、観測気球を揚げる従来の方法では観測データが足りず、大気はそもそもどのように水蒸気を含んでいるのか、その詳細が分からなかった。

海洋研究開発機構の藤田実季子(ふじた みきこ)技術研究員らの研究グループは、GPS衛星から来た電波の受信記録などで地上気温と水蒸気量の関係を分析し、その成果をこのほど発表した。

藤田さんらは、地殻変動を観測する目的で国土地理院が全国に配置しているGPS受信機のデータを使った。GPS衛星から届く電波は、大気中の水蒸気量が多いと、遅れて届く性質がある。全国約1200か所で記録された1996~2010年のデータで分析したところ、地上で観測した一日の平均気温が1度高くなるごとに、上空の水蒸気量は11~14%もの割合で増えている場合があった。理論的には7%の割合で増えるとされていたので、実態は、それを大きく上回っていたことになる。

実際の水蒸気量が理論値を上回る理由を調べたところ、地上気温が上がると上昇気流が活発になり、地表付近の湿った空気が上空まで運び上げられていた。また、水蒸気を限界まで含んだ空気が上昇するときは、その過程で熱を出すので上空の気温が下がりにくく、それが多量の水蒸気を含むことを後押ししていることも分かった。

今回の研究は、大気が含んでいる水蒸気の量を扱ったものだが、実際の降雨も、気温が上がったとき、これまでの予想より強くなる可能性を示す結果だという。

関連記事

「ゲリラ豪雨予測手法を開発 スパコンと最新鋭気象レーダー生かし」

「政府、温暖化影響で初の「適応計画」豪雨、洪水被害やコメ大幅減収など予測 」