ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームは、MEMS向けの新たな合金薄膜材料を開発したと発表した。機械強度、導電性、耐熱性に優れており、IoT用途で使われるセンサーなどに適した材料であるという。研究論文は、Science系列のオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載された。

作製された合金薄膜の透過電子顕微鏡(TEM)による平面像(Science Advances掲載論文から引用 DOI:10.1126/sciadv.1700685)

現在、MEMSデバイスの多くは、シリコンを使って作られている。シリコンは半導体プロセス技術が確立しており、MEMSに必要な微細加工を行いやすいというメリットがあるが、200~300℃程度の熱によってデバイスの機械強度や電気信号を伝えるための導電性が失われるという弱点がある。また、非常に脆く破損しやすいのもシリコンの問題であるとされる。

こうした弱点があるため、高温や物理的ストレスなどがかかる環境で使用されるIoT向けセンサーといった用途を考えると、シリコンは理想的なMEMS材料とはいえない。IoT用途などに適したより高強度で電気特性と熱特性に優れた新規MEMS材料の開発が望まれている。

研究チームは、このような新しいMEMS材料を目指して、ニッケルを主成分とする合金薄膜材料の開発に取り組んでいる。ニッケルはジェットエンジン用の超合金など最先端の構造材料としても多く使われている材料である。今回の研究では、ニッケルの熱膨張を抑制して形状安定性を向上させるため、モリブデンとタングステンを添加することを試みた。

合金薄膜の作製には、イオンの衝突エネルギーによってターゲット合金を蒸発させ、蒸発した原子を基板表面に堆積させる直流スパッタリング蒸着法を用いた。このようにして成膜した合金薄膜は平均膜厚29μm程度となり、基板から剥離してフリースタンディングの状態にすることができる。

フリースタンディング状態の合金薄膜は、他ではみられないさまざまな特性をもっており、たとえば引っ張り強度が3GPa(ギガパスカル)超となる。これは鋼鉄の3倍を超える値である。このように引っ張り強度の高い材料は他にもいくつかあるが、それらは高温で強度が失われたり、MEMS部品に加工しにくいといった問題がある。今回の材料は、機械強度と高温での安定性が両立しているという特徴があるため、MEMS用途としては理想的であると考えられる。

合金薄膜は複数成分が均一に溶け合った固溶体の状態であり、スパッタリングのプロセスによってカラム状の微細なテクスチャーをもつナノ双晶型のマイクロ構造が形成されているという。材料の顕著な強度は、このマイクロ構造によるものであると研究チームは説明している。

600℃で熱処理した後も、構造には目立った変化はみられず安定していた。また、この構造には材料の導電性を阻害しないという特徴もあるとする。研究チームは現在、この合金薄膜材料を実際のMEMS部品に加工する計画などを進めているところであるという。