「三つ目がとおる 《オリジナル版》大全集」 (c)2017-2018 手塚プロダクション

手塚治虫「三つ目がとおる 《オリジナル版》大全集」全8巻が復刊ドットコムより刊行。8月より隔月にてリリースされる。

週刊少年マガジン(講談社)にて、1974年から1978年にかけて連載された「三つ目がとおる」は、三つ目族の王子・写楽保介とクラスメイトの美少女・和登さんが、さまざまな超常現象や謎を解決していく物語。同作は単行本化の際に手塚自身の手で大幅な改訂が加えられ、掲載順の組み換えにより単行本に未収録となる短編が存在していた。B5サイズの大判で刊行される「《オリジナル版》大全集」には、カラーページや扉絵を含む全エピソードを収録。エピソード順やページ割りも雑誌初出時が忠実に再現される。

また原稿はオリジナルのものをベースに、現存している未収録の原稿や切り貼り前の断片をコラージュ。失われた部分のみ印刷物より復刻されている。巻末には雑誌連載時の扉絵や各種口絵などのギャラリーのほか、図説も用意された。

なお復刊ドットコムにて全8巻を一括購入した人には、非売品の「三つ目がとおる」複製原画セット、小冊子「和登サンがいっぱい!(仮題)」、「三つ目がとおる」ポストカードセットがプレゼントされる。

編集部コメント

「三つ目がとおる」のバージョンについて

「どの時代の読者にも、より良い形で楽しんでもらいたい」という、手塚先生ならではのサービス精神から、自作が単行本化される際に、自ら細かく改訂なさることは、ファンの間ではよく知られています。1974~78年に講談社「週刊少年マガジン」に連載された『三つ目がとおる』は、最初に「講談社コミックス」(通称・KC、新書判)の時点でページやコマなどのカットや改変があり、さらに『手塚治虫漫画全集』(B6判)で大きなエピソード移動が行われました。
そうした経緯から、エピソード順の入れ替え、それに伴う設定などの調整、未収録短編の発生など、作品の全体像が複雑化したため、「少年マガジン」の実物を見る以外に、本作品の初出時の姿を知るすべはありませんでした。
以降、「プラチナコミック」(コンビニ本)、「秘蔵短編集」(文庫)などが未収録の短編をフォローしたり、近年では、講談社から「イースター島航海編」のみが単独で、雑誌からの全復刻によりA5判で刊行されるなど、さまざまな動きがありましたが、いったん複雑化した書誌のルーツを探るためには、全話を雑誌に準拠した形で読む以外になく、それが今回の「《オリジナル版》大全集」の刊行として結実した次第です。
これまで刊行されたどのバージョンも、それぞれに個性や特徴があり、読み比べてみることで、読者の皆様が、本作の新たな魅力を発見して下さることを願ってやみません。

本シリーズの編集方針について

これまで弊社(復刊ドットコム)で刊行して参りました手塚作品の多くは、「雑誌版面からのダイレクトスキャン」+「デジタルレストア(修復)」という形であり、《オリジナル復刻版》と銘打ってきました。前述の通り、各作品とも過去に単行本化された際に手塚先生ご自身による改訂がなされ、現存する原稿は随所に切り貼りされている、というのが最大の理由であり、雑誌初出版を再現するならば、往年の雑誌そのものから復刻するしかなかったわけです。
この方法の場合、雑誌の誌面そのものの「臨場感」を再現できるというメリットの反面、膨大な時間と労力をかけて1コマずつレストアしても、いわゆる「ザラ紙」と呼ばれる雑誌用紙への印刷時のにじみや、数十年前の印刷物の褪色・劣化の影響は免れ得ない、というデメリットもあります。
『鉄腕アトム』『リボンの騎士』など、発表年代の旧い作品では、切り貼りの傾向が顕著でした。一方で、昭和40年代後半に出版界を襲った「紙パニック」以降の時期の漫画週刊誌は、いずれも紙質が安定しないためか、雑誌の現物を今見ると「にじみ」「裏写り」が激しく、レストアが非常に困難、という物理的事情もあります。
かつて、『ブラック・ジャック大全集』の刊行時にも、このことが手塚プロダクションとの間で討議・検討されましたが、手塚作品の中では内容的にさほど改訂箇所がない同作品では、「手塚先生の流麗なペンタッチを活かす」ことを優先。復刻ではなくオリジナル原稿を使い、扉周りやページ構成などをできるだけ雑誌初出時に近づけた上で、それ以上の差異については、巻末の「図説」でフォローすることになりました。
その頃から、「将来、『三つ目がとおる』をB5オリジナル版で刊行するなら、また別の、新たな方法にチャレンジしよう!」ということで意見が一致しておりました。
ただし、『B・J』と違い、『三つ目』は、作品全体が著しく改訂されているため、話はそう簡単ではありません。
幸い、描かれた年代が新しいため、「未収録ページ」や「切り貼りされた断片」の原稿が、手塚プロ資料室に、ほぼ保存されていました。それらを使い、雑誌版に準じてページやコマを、逐一、コラージュ編集してゆけば、オリジナル初出版の再現も不可能ではないはずですので、どうぞご期待下さい。

(c)2017-2018 手塚プロダクション