主要国の長期金利(10年物国債利回り)が足元で上昇している。2015年末にいち早く利上げを開始した米国のFRB(連邦準備制度理事会)を別として、主要国の中央銀行がリーマン・ショック後から続けてきた極端な金融緩和を解除する方向に動き始めたからだ。

過去1か月間に、長期金利の上昇幅が最も大きかったのが、カナダ、次いで英国だ(下表)。いずれも、6月に入って中央銀行の総裁が利上げ開始に前向きな発言をしている。それら2か国に次いで上昇幅の大きかったのがドイツ。こちらについても、ECB(欧州中央銀行)関係者の発言などを受けて、現在も続けられているQE(量的緩和)の縮小が近付いているとの観測が浮上してきた。

他方、米国の長期金利は、昨年11月の大統領選挙でのトランプ氏勝利を受けて急騰した。トランプ氏の公約である減税やインフラ投資が実現すれば、景気の過熱や財政赤字の拡大につながると市場が懸念したためだ。

米長期金利はその後も上昇を続け、昨年12月と今年3月に2.6%近辺でいったんピークをつけた。それらはいずれもFRBの利上げのタイミングとほぼ一致している。しかし、今回は6月中旬のFRBの利上げに向けて米長期金利はむしろ低下しており、上昇に転じたのは利上げからしばらく経ってからだ。しかも、現在の米長期金利の水準は昨年12月や今年3月の水準に届いていない。

ドイツの長期金利はすでに3月のピークを越えて上昇しており、またカナダの長期金利も3月のピークにほぼ並んでいる。足元の米長期金利の上昇は、ドイツやカナダの長期金利上昇に先導されているとの印象を受ける。

つまり、こういうことが言えないか。米国が一国だけで金融政策の正常化を進めるのであれば、世界的に金融政策が緩和されたなかで長期金利の上昇にも自ずと限度がある。しかし、主要な中央銀行の多くが金融政策の正常化を進めるのであれば、長期金利にはまだまだ上昇余地があると。

そうした中で、日本の長期金利はほとんど変化していない。日銀が金融緩和の姿勢を堅持しているからだろう。現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで

日銀は長期金利を「ゼロ%程度」で維持することを目指している。世界的に長期金利が上昇するなかでも、日本だけが「蚊帳の外」なのだろうか。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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