広島大学(広大)と大阪府立大学は7月6日、高温超伝導を担う電子が、格子振動と最も強く結合している証拠をとらえたと発表した。

同成果は、広島大学放射光科学研究センター 井野明洋特任准教授、大阪府立大学大学院工学研究科 安齋太陽助教、東京大学大学院理学系研究科 内田慎一名誉教授らの研究グループによるもので、7月6日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

鉛やアルミニウムでは、反発しあう電子のあいだを格子振動が仲介することで、超伝導が発現する。しかし、銅酸化物における高温超伝導については、格子振動で支えることができるのかどうかはわかっていなかった。これまでに、電子が何らかの振動と強くやりとりしている痕跡が電子の速度の変化として観測されていたため、その正体の特定に向けて多くの研究が行われてきた。候補として残されたのが、磁気的な共鳴振動と酸素座屈型の格子振動だが、両者のエネルギーが近いために特定は難しかった。

今回、同研究グループは、高輝度のシンクロトロン放射光と高分解能・角度分解光電子分光装置を組み合わせて、ビスマス系銅酸化物高温超伝導体(Bi2Sr2CaCu2O8+δ、Bi2212)中の電子の速度を精密に観測し、細い構造を分離することに成功した。そして、極度に正孔添加を行ったところ、電子の速度における構造の強さとエネルギーの分布が、格子振動の分布と一致したことから、電子と最も強く結びついているのが格子振動であることが明らかになった。

同研究グループは、今回の成果について、高温超伝導の研究を次の段階に導く突破口として、基礎および開発研究への波及効果が見込まれるものと説明している。

電子のエネルギーと運動量の観測。傾きが電子の速度を表す。(図中央)電子の速度の変化。微細構造が78、42、10meV に検出された。(図右)電子と結合している格子振動の種類。黒丸が銅原子で、白丸が酸素原子 (出所:大阪府立大学Webサイト)