東京大学(東大)などは7月6日、マウス個体の全身・全臓器に存在するがん微小転移を1細胞レベルの解像度で解析することを可能にする技術を開発したと発表した。

同成果は、東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻システムズ薬理学分野 上田泰己教 授(理化学研究所生命システム研究センター合成生物学グループグループディレクター兼任)、久保田晋平日本学術振興会特別研究員、病因・病理学専攻分子病理学分野 宮園浩平教授、高橋恵生特任研究員らの研究グループによるもので、7月5日付けの米国科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。

がん転移の研究には、がん細胞をマウスへ移植し、がん転移が生じる過程を観察するマウス がん転移モデルが広く使用されている。これらマウスがん転移モデルの解析には、病理組織の解析や抗体を用いた免疫組織化学染色法、生物発光イメージング法などのイメージング技術が活用されており、近年では臓器の深部でのがん細胞の増殖を、時間を追って観察することが可能となってきている。しかしながら、1個もしくは少数のがん細胞からなるがん微小転移を動物実験で検出し、定量化する方法は確立されていない。

同研究グループはこれまでに、高速3次元撮影が可能であるライトシート顕微鏡に着目し、この手法を不透明である哺乳類に応用するために組織透明化という手法を開発してきた。2014年には、血液中の赤色色素「ヘム」に代表される生体色素の脱色に着目することによって、マウスを個体ごと透明化する手法を開発し、幼生マウスの全身イメージングに成功している。

今回の研究では、さらなる透明化手法の開発を目指し、屈折率の調整の最適化を行った。その結果、脱脂・脱色試薬 CUBIC-L、屈折率均一化試薬CUBIC-Rを作製し、成獣マウスの全身イメージングが可能なまでの高度な透明化に成功。さまざまな種類のマウスがん転移モデルにこの透明化手法を応用することで、肺や肝臓への遠隔転移、腹膜播種が個体レベルで観察可能となり、さらには1細胞レベルでのがん微小転移を高い解像度で定量化することが可能となった。

1細胞解像度での担がんモデルマウスイメージング-腎臓がんの例。蛍光タンパク質(赤色:mCherry)を発現している腎がん細胞を腎臓に移植することによって全身のがん転移を誘導した。成獣マウスは細胞核が染まる蛍光色素(青色:RedDot2)で染色されている。原発巣である腎臓から胸部・腹部へと遠隔転移していることが観察でき、また全身に点在する1つ1つの転移巣をプロファイリングすることも可能 (出所:東大Webサイト)

同研究グループは、この技術を応用してがん転移の時空間的解析を行うことで、がん細胞による初期の転移巣の形成機構を解明したり、抗がん剤の治療効果を臓器や個体レベルで検証したりすることが可能になると説明している。