京都大学は、生存圏研究所の海老原祐輔准教授、総合生存学館の磯部洋明准教授、早川尚志氏、河村聡氏、玉澤春史氏らの研究グループが、東京大学学術研究員 三津間康幸氏をはじめ、国立極地研究所、東北大学、国文学研究資料館の研究者と共同で、8世紀末のシリア語史料「ズークニーン年代記」の自筆手稿本におけるオーロラ・彗星図像が、観測記録として世界最古のものである可能性を明らかにしたことを発表した。この研究成果は、日本天文学会欧文研究報告(PASJ) 2017年4月号に掲載され、同号の表紙にも選ばれた。

年代記作家本人の直接観測による最古の図像と言える、シリア語写本MS Vat.Sir.162に見える771/772年のオーロラ図像 MS Vat.Sir.162, f. 150v.(出所:京大Webサイト)

「近代天文観測」は17世紀初頭に始まったとされているが、それより遙か以前に人類が夜空を見上げた歴史記録は、近代観測以前の天文現象を考える上で必要不可欠である。例えば、歴史文献は前近代のオーロラ・黒点記録を通して近代観測以前の太陽活動の様子を、また「客星」の記録を通して超新星爆発の貴重な情報を今日の科学者に伝えている。特に図像史料は、当時の天文現象を文字記録と相補いながら伝える重要な記録である。

これまでオーロラの文字記録についての検討は繰り返し行われ、最古のオーロラ記録が遥か紀元前6世紀まで遡ることが究明されてきた。しかし、図像史料については16世紀以前のものについて研究が進まず、それ以前のいくらかの史料で天文図像の存在が指摘される一方、そのオリジナルの図像について文理両面からの検討はされていなかった。

今回、研究グループは、8世紀末に編纂された「ズークニーン年代記」の自筆写本の原写本を調査し、全10個の天文図像について文理両面からの検討を行った。その結果、各々の天文図像は年代記作者本人の絵であること、全10個の天文図像のうち、767年以降に記録された天文図像4個が年代記作者本人の直接観測に基づくもので、760年の彗星図像は本人の同時代人からの直接伝聞に基づく記録であることから、従来16世紀までしか遡らないと思われていた観測記録としてのオーロラの図像が、771/772年まで遡ることなどを明らかにした。