国立遺伝学研究所(遺伝研)は、同研究所の松本悠貴氏(総研大遺伝学専攻大学院生)と小出剛准教授らの研究グループが、ロンドン大学 Richard F. Mott 博士との共同研究により、動物が人に近づく行動に関わるゲノム領域を明らかにしたことを発表した。この研究成果は7月4日、英国のオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

選択交配により自ら人に近づくマウスを作成して解析したところ、11番染色体上のゲノム領域が人に近づく行動に重要だった。この領域は犬の家畜化に関するゲノム領域と相同だった(出所:遺伝研ニュースリリース※PDF)

多くの野生動物は人を見ると即座に逃げていくが、イヌなどの家畜動物の多くは、人が近づいてもあまり逃げることはなく、むしろ自ら人に近づいていくものもいる。この行 動の違いはこれまで、どのような遺伝的しくみで生じているのかわかっていなかった。愛玩動物のマウスは人に触れられても逃げない「受動的従順性」を持つが、自ら人に近づく「能動的従順性」は示さない。

研究グループは、家畜動物にお見られるような人に近づくマウスを作り出し、「能動的従順性」の遺伝的な仕組みを明らかにすることに挑戦した。野生マウス同士を交配させて生まれたマウスの中から「人の手を恐れず近寄ってくるマウス」を選び、それらをさらに交配させるという選択交配実験を繰り返すことによって、「自ら人に近づくマウス」集団を作り出すことに成功した。

次に、これらマウスから、人に近づく行動を生み出すゲノム領域を調べたところ、11番染色体上のふたつのゲノム領域(ATR1、ATR2)が重要であることを発見した。さらに、高度な従順性を示す犬との比較ゲノム解析を行った結果、これらふたつのゲノム領域が、イヌの家畜化にも影響している可能性を見いだした。

この成果について研究グループは、既存の家畜動物がこれまでにどのようにして作出されてきたのかを遺伝学的に理解する基礎となる情報を提供し、野生動物の多くがなぜ家畜化できないのかを、遺伝学的視点から理解することを可能にするかもしれないと説明している。今後は、この成果を動物育種技術の発展や、これまで家畜化に成功していない多くの動物種に家畜化の道をひらく可能性が期待できるとしている。

選択群を用いた能動的従順性に関わるゲノム領域の解析(出所:遺伝研ニュースリリース※PDF)