物質・材料研究機構(以下、NIMS)の研究グループは6月29日、酸化物ナノシートやグラフェンなどの2次元物質を、1分程度の短時間で基板上に隙間なく単層で配列する新技術を開発したと発表した。同技術により、煩雑な操作を必要とし製膜にかかる時間が長いなどの従来プロセスの問題点が一掃され、ナノシートを用いた各種デバイスの工業的製造を前進させると期待される。

同成果は、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の佐々木高義拠点長らの研究グループによるもの。7月1日に米国科学雑誌Science Advancesのオンライン版で発表された。

酸化チタンナノシートゾルをシリコン基板上でスピンコートした様子(出所:NIMS webサイト)

グラフェンや酸化物ナノシートなどに代表される2次元物質は、原子から分子レベルの2次元形状を持ち、それに基づいて高速電子電動、高誘電性、高い触媒性などの優れた機能を発現するため、エレクトロニクス、環境、エネルギー技術など広範な分野に技術革新をもたらす期待が高く、精力的な研究開発が進められている。

2次元物質は多くが有限の横サイズを持ったシート状物質が溶液中に分散したコロイドとして得られるため、その優れた機能をフルに引き出してデバイス化するためには、これらをさまざまな機材の表面に秩序正しく配列させることが第一のステップとして求められている。つまりナノシートの隙間や重なりを生じさせず単層膜として配列させることが必要であり、これが達成されれば反復作業により多層膜や超格子膜を構築することができ、多彩な機能開発が可能となる。現状では主にラングミュア・ブロジェット法(以下、LB法)が適用されているが、熟練した操作、複雑な条件設定が必要であることに加え、成膜に通常1時間を要するため、工業的製造を想定する上では現実的でなく、大きなネックとなっていた。そのため簡便かつ短時間で成膜できる工業化可能な技術の開発が求められている。

同研究では、酸化物ナノシートやグラフェンの有機溶媒ゾルを基板上に少量滴下し、適切な回転数でスピンコートをすることで、約1分間という極めて短時間でナノシートを稠密配列できることを見出した。これは、LB法の数十分の一の時間で実施可能なことを意味する。基盤を回転させることによる遠心力とナノシート同士、ナノシートと基板表面の間に働く力のバランスにより、ナノシート間の重なり、隙間の発生が抑えられ、原子レベルで平滑な単層膜が形成できる。さらにこの操作を反復することにより、ナノシートの厚み単位で制御された多層膜のレイヤーバイレイヤー構築が可能であることも確認された。同技術はさまざまな組成、構造の2次元物質に適応可能であり、かつさまざまな形状、サイズ、材質の基板上に製膜できることが確認できていることから、普遍性の高い成膜技術といえるとしている。

なお、同機構は今回の成果が新しいメカニズムで2次元ナノシートの稠密配列を達成したもので、学術的にも高い新規性を有していることに加え、ナノシートの応用の鍵となる稠密配列単層膜から多層膜の構築を簡単な操作、短時間プロセスで可能とするため、ナノシートを用いた実用デバイスの工業的製造に道を開く画期的な成果と位置付けられると説明している。