九州大学は7月4日、糖尿病治療薬メトホルミンの致死的な副作用である乳酸アシドーシスに対して、低酸素状態に対する生体応答反応(低酸素応答)を活性化する薬剤が治療薬として有効であることを発表した。

同成果は、九州大学生体防御医学研究所の南嶋洋司特任准教授および慶應義塾大学医学部医科学教室・麻酔学教室の研究グループと、第一三共との共同研究によるもの。詳細は、2017年6月12日に米国科学雑誌「Molecular and Cellular Biology」のオンライン版に掲載された。

メトホルミンは世界で最も多く処方されている2型糖尿病の治療薬だが、血統を低下させる作用以外にもがん細胞の増殖抑制、発癌率の低下、寿命の延長などのさまざまな作用を有することが報告されつつある。60年以上使用されている古い薬であり薬価が安いことから、今後も内服者数は増加すると予想される。しかし、腎機能が低下した人がメトホルミンを内服すると、致死率が約50%と極めて高い「メトホルミン関連乳酸アシドーシス(MALA)」が副作用として発症することが問題だった。

同論文では、酸素濃度センサー分子であるプロリン水酸化酵素PHDの酵素活性を抑制する薬剤(PHD阻害剤)によって、乳酸からのブドウ糖の合成(糖新生)に関与する遺伝子群の発現が上昇し、血中乳酸の肝臓や腎臓への取り組みが亢進することで、乳酸アシドーシスを発症したマウスの生存率を劇的に改善できることを明らかにした。

アデニン含有食を給餌して腎機能が低下したマウスにメトホルミンを内服させると、メトホルミン関連乳酸アシドーシスが発症。PHD阻害剤で治療すると、生存率が劇的に改善した。(出所:九州大学Webサイト)

このことは、これまで対症療法しか治療法がなかった乳酸アシドーシスに対して、PHD阻害剤が特効薬となり得る可能性を示した。

同成果に対し研究者は、「全世界で1億2千万人以上が服用しているメトホルミンは優れた糖尿病治療薬だが、発症頻度は低いながらもひとたび発症すると致死的な乳酸アシドーシスが副作用として知られていた。今回の研究成果により、メトホルミン内服に限らず、致死的乳酸アシドーシスへの確実な救済策が確立されることを望む」と述べている。