筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構は、代謝量は時間経過と各睡眠ステージの影響を受けて変化し、エネルギー消費量と炭水化物酸化量は睡眠前半では下降し、目覚める直前に上昇することを発見したと発表した。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の萱場桃子研究員、佐藤誠教授、筑波大学体育系大学院生の朴寅成、徳山薫平教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、Metabolism誌2017年4月号に掲載された。

ヒューマンカロリメーターによるエネルギー代謝および脳波測定の様子(出所:WPI-IIISプレスリリース)

睡眠とエネルギー代謝は密接な関係にあり、睡眠不足は代謝疾患や肥満の発症と関連していることが知られている。睡眠時にどのようにエネルギー代謝が行われているか、これまで様々な研究が行われてきたものの、正確な測定が難しかったことにより、一致した結果が得られていなかった。これまでの研究では、エネルギー消費量は中途覚醒やレム睡眠時に多く、徐波睡眠時に少なくなることが報告されていたが、ヒトの睡眠では、前半に徐波睡眠が多く、後半ではレム睡眠が多くなるという特徴があるため、エネルギー代謝が睡眠段階の影響を受けているのか、時間の影響を受けているのか不明だったという。

睡眠の各ステージ(出所:WPI-IIISプレスリリース)

同研究では、29名の被験者について、脳波による睡眠測定およびヒューマンカロリメーターを用いた代謝(エネルギー消費量・炭水化物酸化量・脂質酸化量・呼吸商(RQ))測定を行った。ヒトの睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に大別されるが、さらに細かな睡眠ステージに分けることができ、一晩に何度か、短時間の脳波上の覚醒(中途覚醒)が観察される。代謝に影響を与える要因を明らかにするため、得られたデータについて統計学的手法を用いて時間や睡眠ステージなど各要因の影響を調整して解析を行い、「入眠してからの時間を調整したときの睡眠段階ごとのエネルギー代謝」および、「睡眠段階のそれぞれの影響を調整したときの睡眠時エネルギー代謝の経時変化」について検証した。

その結果、エネルギー消費量・炭水化物酸化量・RQは入眠直後に急速に減少し、目覚めの直前に増加することが明らかとなった。脂質酸化量は睡眠の前半で増加し、後半になるにつれて減少していた。さらに、エネルギー消費量は「中途覚醒>レム睡眠>睡眠段階N1>睡眠段階N2>徐波睡眠」の順に、炭水化物酸化量は「覚醒>中途覚醒>睡眠段階N1>レム睡眠>徐波睡眠>睡眠段階N2」の順に睡眠ステージ間で有意な差が認められた。

今回の研究により、代謝量は入眠以降の時間経過および、各睡眠ステージの影響を受けて変化していることが明らかとなった。今後、さらに睡眠と代謝をつなぐメカニズムが解明されれば、睡眠へのアプローチにより、肥満や糖尿病などの内分泌疾患の予防や改善が見込まれる可能性があるということだ。