北海道大学(北大)は6月29日、アレルギー性疾患の抑制に重要な役割を持つグルココルチコイド受容体(GR)の細胞内部での二量体形成などの分子動態を明らかにしたと発表した。

同成果は、北海道大学大学院先端生命科学研究院 細胞機能科学分野 Manisha Tiwari博士、大浅翔博士研究員、金城政孝教授らの研究グループによるもので、6月28日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

GRは、リガンドと結合することで細胞内部の局在を細胞質から核内へと変える。核内では、二量体を形成したGRがゲノムDNAと直接結合することによって、アレルギー性疾患の抑制に関わる遺伝子の発現を制御すると考えられている。

しかしながら、GRとリガンドが結合してから遺伝子の発現制御までのあいだの細胞内部における過程は不明であった。特にゲノムDNAと結合し、遺伝子の発現制御に関与するとされているGRの二量体の細胞内部での形成についてはあまり研究が行われていなかった。

今回、同研究グループは、緑色蛍光タンパク質(GFP)と赤色蛍光タンパク質(RFP)をそれぞれ融合したGR(GFP-GR、RFP-GR)をヒト骨肉腫細胞(U2OS)に発現させ、蛍光相互相関分光法を用いて、細胞内部でのGRの二量体形成と、GRが相互作用するパートナータンパク質との複合体形成の両方を測定した。

さらに、独自に開発したシリコンチップと組み合わせたin vitroの単一細胞測定システムを新規に構築し、溶液の状態でGR二量体形成の単一細胞測定を行い、細胞内部と溶液内でのGRの二量体形成を比較した。

この結果、GR二量体の結合解離定数を細胞内で決定することに成功した。また、GRのDNAとの結合を欠損させた変異体や二量体形成を欠損させた変異体と結合解離定数を比較することにより、GRがゲノムDNA上でなくても二量体を形成することが明らかになった。さらに、細胞内部での細胞質から核への移行を欠損させた変異体の実験から、細胞質内においてもGRは二量体を形成することがわかった。

さらに、in vitroの単一細胞測定システムの実験においては、GRの結合解離定数が細胞内部での結合解離定数と比較して1/10程度に減少した。これは、細胞内部においてGRが二量体を形成しにくくなっていることを示唆するものであり、細胞内部の環境がGRの二量体形成を抑制する方向に働くことも明らかになった。

同研究グループは今回の成果について、細胞内のグルココルチコイド受容体を標的に、アレルギー性疾患の薬剤探索への応用が期待されると説明している。

グルココルチコイド受容体の分子機構モデルの概略 (出所:北大Webサイト)