神戸大学は6月27日、コレステロールを運ぶ高比重リポタンパク(HDL)の機能を簡便に評価できる新たな測定系を開発したと発表した。

同成果は、シスメックス中央研究所 原田周主任研究員、神戸大学医学研究科立証検査医学分野 杜隆嗣特命准教授、同医学研究科循環器内科学分野 平田健一教授らの研究グループによるもので、5月31日付けの米国科学誌「The Journal of Applied Laboratory Medicine: An AACC Publication」に掲載された。

HDLは血管などに溜まったコレステロールを肝臓へと回収し、動脈硬化の発症・進展を抑える作用を持つ。近年、肥満や糖尿病、喫煙などによりHDLの作用が減弱すると考えられるようになり、心血管病の予防・管理においては、HDL中のコレステロール量を測定するよりも、HDLが細胞に過剰に蓄積したコレステロールを引き抜く能力を評価するほうが有用であるとの報告がされている。

しかしながらこの、HDLのコレステロール“引き抜き”能を測定するためには、放射性同位体で標識したコレステロールをあらかじめ取り込ませた培養細胞が必要であり、また手技が煩雑かつ全行程に数日を要するため、日常臨床で測定することは非現実的であった。

今回、同研究グループが新たに開発した測定系は、放射性同位体の代わりに蛍光色素で標識したコレステロールと、被検者より採取した血清に加え、HDLに含まれるアポタンパクA-Iの抗体を用いて血清中のHDLを補足し、蛍光強度を測定してHDLに取り込まれたコレステロール量を評価するというもの。同測定系にて得られた指標を、細胞を用いる従来のコレステロール“引き抜き”能に対し、コレステロール“取り込み”能と命名した。

コレステロール“取り込み”能のイメージ (出所:神戸大学 Webサイト)

コレステロール“取り込み”能は6時間以内という短行程で測定が可能であり、高い再現性を示した。また、従来のコレステロール“引き抜き”能と良い相関を示す。さらに、酸化処理を施したHDLではコレステロール“取り込み”能は低下を示し、同測定系により実際に機能が低下したHDLを検出できることが確認されている。

また、心血管病の再発を認めた患者ではコレステロール“取り込み”能が低下していることが明らかになっており、同指標は悪玉(LDL)や善玉(HDL)コレステロールからは独立した負の危険因子であることがわかった。

同研究グループは現在、さらに大規模な母集団を用いてHDL機能の低下が心血管病の予防・管理にどのようなインパクトを及ぼしているのか検証しているという。