待機児童解消のための緊急的な対応策として、家庭にベビーシッターを派遣する「居宅訪問型保育事業」を利用する動きが、東京23区で広がりつつある。これまでは主に重度障害児に限定していた同事業の対象を、希望する保育園に入れなかった0~2歳児にも広げることで、施設が整備できるまでの間の受け皿にしたい考えだ。待機児童向けに事業を始めた区の担当者に話を聞いた。

東京23区、自治体によるベビーシッター事業広がる - 認可保育園と同額で(画像はイメージ)

待機児童ゼロのための救世主となるか

豊島区は、重度障害児向けに以前から行っている居宅訪問型保育事業とは別に、2016年12月から待機児童向けのサービスを始めた。当初の定員は10人。すぐに定員に達したため、今年度は8倍の80人に枠を増やし、当初予算に3億円を計上した。保育需要の増加も見越しての増員だという。

実際には、保育園の新設などの対策が奏功し、今年4月に待機児童ゼロを達成。現在(2017年6月1日時点)は、9人が居宅訪問型保育を利用しているのみで、定員にまだ余裕がある状態だ。区保育課は「待機児童ゼロを維持するため、来年度も事業を引き続き行いたい」としている。

また、港区も同事業の対象を拡大。これまでは「医療的ケアが必要な児童」に限っていたが、今年4月からは認可保育園などに5園以上申し込んだにもかかわらず入れなかった0~2歳の待機児童も利用できるようにした。区は今年度予算に医療的ケア児を含めた30人分の予算を計上。現在は21人(2017年6月1日時点)が利用しており、さらに「今年度中に100人程度にまで増やせる用意がある」(保育課)という。

この7月からは渋谷区でも、待機児童向けサービスが始まる。今年度は10人分の枠を確保しており、応募多数のために選考を行い、すでに利用者が決定している。

「思ったよりラク」「家に上げるのに抵抗感」

居宅訪問型事業は、2015年に始まった子ども・子育て支援新制度のうち「地域型保育事業」の一環として、新たに市区町村の認可事業に加わった。保育を必要とする0~2歳児を対象とし、保護者宅で一対一の保育を行うというものだ。利用者の保育料は認可保育園に通わせる場合と同額程度になり、個人でベビーシッターを雇った場合に比べると格安の料金で利用できる。

自治体としては、用地確保や施設建設が必要ないため、時間や費用をかけることなく待機児童に素早く対応できるというメリットがある。また、毎年の保育需要の変化にも、柔軟に対応できる。利用者としても送迎がなくなるため、「思ったよりラクだった。引き続き利用したいと言う声もある」(豊島区)という。

一方で、想定通りに利用が進まない現状もある。港区では居宅訪問型保育の定員にまだ空きがあるものの、依然として待機児童が残っている状態だ。その理由について区の担当者は、「集団保育を想定していた人にとっては、一対一の保育は希望に合わなかったのではないか。また、留守中にベビーシッターを家に上げることへの抵抗感がある人も多いようだ」と話す。

居宅訪問型保育の対象拡大は、自治体にしてみれば保育施設整備が追いつかない中でのいわば苦肉の策。それが会心の一策となるかどうかは、利用者の心理的ハードルをいかに取り除いていけるかにもかかってきそうだ。