京都大学は、海洋バイオマス資源に多く含まれるアルギン酸モノマーと単糖のマンニトールを利用できるように代謝改変した出芽酵母が、どのようにしてアルギン酸モノマーの代謝能を向上させるのか、その分子メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。

代謝改変出芽酵母の細胞内でのアルギン酸モノマーの代謝経路。A1-R’、KdgK、Edaの各遺伝子およびアルギン酸モノマー輸送体遺伝子のコドンを出芽酵母型に最適化した上で、プロモーターとターミネーター配列に挟み込んで、出芽酵母ゲノムDNAの特定の領域に挿入した。(出所:京都大学プレスリリース)

同研究は、京都大学農学研究科の松岡史也(修士課程学生)、河井重幸助教、橋本渉教授、摂南大学理工学部の村田幸作教授(京都大学名誉教授)らの研究グループによるもので、同研究成果は6月23日、英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

出芽酵母(パン酵母)は、強力な発酵能を示す安全な食品微生物であり、米国やブラジルではトウモロコシやサトウキビからの大規模バイオエタノールの生産にも出芽酵母が利用されている。日本は、米国やブラジルほどトウモロコシもサトウキビも生産できないものの、広大な管轄海域に恵まれており、潜在的には大量の国産海洋バイオマス(大型褐藻)の生産が可能である 。そこで、藻場という大群落を形成するコンブなどの大型褐藻を発酵させることで、有用化合物を生産するという着想が生まれるが、酵母は褐藻の主成分アルギン酸とマンニトールを利用できないという問題があった。

アルギン酸モノマー代謝能向上のメカニズム。2種類の代謝改変酵母の適応進化の結果、ともにアルギン酸モノマー還元酵素遺伝子の同じ箇所に変異が入った。その結果、同還元酵素(A1-R’)の近傍のグルタミン酸残基がグリシン残基に置換され、アルギン酸モノマーの代謝能が向上した。(出所:京都大学プレスリリース)

同研究チームは、高分子アルギン酸のモノマー体の代謝に必要な遺伝子と、マンニトール代謝に必要な遺伝子を2種類の出芽酵母のゲノムDNAに組み込んだ。それだけではアルギン酸モノマーの代謝能は不十分だったが、適応進化(アルギン酸モノマーを含む培地で~160世代、~30回の継代培養をする)により両酵母のアルギン酸モノマー代謝能の向上に成功。すなわち、アルギン酸モノマーとマンニトールを利用できる酵母の作出に成功した。

しかし今回の研究結果では、代謝能が向上するメカニズムは不明であり、このメカニズムが明らかになれば、アルギン酸モノマーとマンニトールを利用できる代謝改変出芽酵母を構築する上で極めて有用な情報となるという。今後は、今回得られた知見を基に、代替ガソリン(イソブタノール)や合成ゴム原料(2,3-ブタンジオール)合成系も組み込むことにより、酵母発酵による国産海洋バイオマス資源からの代替ガソリンや合成ゴム原料等の有用化合物生産の実用化を目指す。これにより石油資源への依存度を下げると共に、水産業の新興、更には管轄海域の保全にも寄与できると期待されるということだ。