東京大学(東大)は6月21日、銀河系の「バルジ」と呼ばれる中心部にあるミラ型変光星の分光観測を行い、炭素を主成分とする固体微粒子(すす)に覆われた変光星を発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科 松永典之助教を中心とする国際研究グループによるもので、5月18日付けの英国科学誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」オンライン版に掲載された。

銀河系の中心部には、数百億個の星が銀河中心から半径1万光年以内に密集している領域がある。ミラ型変光星は、膨張と収縮をくり返すことで明るさが変化する星で、100日程度から数年間という長い周期で、明るさが10倍以上変化するのが特徴。半径が1天文単位かそれ以上まで膨らんでいて、結果として表面が約3000度と比較的低く、分子や固体微粒子を多く作ることが知られている。その組成は炭素が多い場合と酸素が多い場合の2つに大別される。銀河系バルジの場合は、ほとんどのミラ型変光星で酸素の多くなっていることが過去の研究でわかっており、炭素の多いミラ型変光星は見つかっていなかった。

今回、同研究グループは、銀河系バルジの方向ですでに発見されていた6500個以上のミラ型変光星のなかから、赤外線での星の色にもとづく新たな方法を利用して、炭素を多く含む可能性のある星を選出。そして、南アフリカ天文台の1.9m望遠鏡での分光観測を行ってスペクトルを取得し、8個の天体が実際に表面に炭素の多い星であることを確認した。また、同じく南アフリカ天文台にあり、1.4mの口径を持つIRSF望遠鏡で近赤外線撮像観測を行い、それらの星のうち4個が銀河系バルジの距離にあることも確認している。

少数ながら、異なる化学組成を持つ固体微粒子を放出するミラ型変光星があることは、バルジを構成する星の集団の複雑さを示す新しい証拠であるといえる。新たに見つかった炭素すすを放出するミラ型変光星の年齢などははっきりとわかっていないというが、同研究グループは、バルジがどのように星を作ってきたのかという銀河系の歴史を探るための重要なヒントを与えてくれるものと説明している。

炭素すすに覆われたミラ型変光星4個の画像。IRSF望遠鏡で得た1~2μのデータを合成した画像。炭素すすに覆われた星は他の星よりも赤くなるという特徴が見られる。それぞれ、北が上、東が左で、約1分角の範囲を表示している (出所:東大Webサイト)