東北大学は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ研究開発課題「災害対応建設ロボットの開発」において、大阪大学大学院工学研究科の吉灘裕特任教授、東京工業大学工学院の鈴森康一教授らのチームが、2重旋回機構を用いた複腕の災害対応重作業ロボット(建設ロボット)を開発し、災害現場を模擬した評価試験フィールドにて実証試験を開始したことを発表した。

2重旋回・複腕機構による両手のレイアウトと作業例(出所:ニュースリリース※PDF)

災害時の対応作業では多くの建設機械が用いられる。なかでも油圧ショベルは、クローラによる走破性と多関節が可能とする作業性によって災害現場での中心的な役割を担っている。しかし、急勾配の斜面や大きな段差のある災害現場へのアクセスの能力が十分ではないうえに、瓦礫除去などの際に再崩落を発生させないための微細なコントロールが難しいという課題があった。

また、災害対応ではオペレータにも危険が及ぶ可能性があるため、遠隔操作が必要となる。油圧ショベルにはラジコンの遠隔操縦装置がオプションも用意されているが、多くは100m以内の距離からの直視による遠隔操作のため、災害現場への対応としては十分ではない。

研究開発チームは、こうした課題を解決した災害対応の重作業ロボット開発を進めており、今回、その最終コンセプトである「2重旋回・複腕機構」を採用したロボットのプロトタイプが完成し、災害現場を模擬した評価試験フィールドにて実証試験を開始した。

2重旋回・複腕機構とは、左右の腕と、肩の旋回部を同軸上に重ねたもので、人間や動物のように肩の関節が別々の軸上に配される機構に比べて、はるかに大きな直径のベアリングを肩の旋回部に使える機構だ。両腕はロボットの重心付近で支持されているため安定性が高く、大きな負荷が掛かる重作業に適した構造となっている。

また、油圧システムの応答性を高めて優れた運動特性を実現しているほか、力覚や触覚をフィードバックすることで、従来の建設機械では困難であった繊細かつ器用な作業にも対応する。加えて、腕で地面を支えながらクローラで移動することも可能で、例えば、急傾斜地や凹凸の激しい現場では、片腕で立木や地面の固定物を掴み、もう片方の腕でハンドリング作業を行ったり、腕とクローラを協調させて段差を乗り越えたりが可能となっている。

2多指ハンドの作業例。左:多指モードによる物体把持、右:バケットモードによる砂利すくい(出所:ニュースリリース※PDF)

さらに、片方の腕に装着される4本指ハンドは、バケット(ショベル)のような「掘削」と、ハンドの「把持」のモードを切り替えることが可能で、対象物の形状に応じた幅広い制御に対応する。

加えて、遠隔で操縦するオペレータが、まるで対象物を触っているかのような力覚と触覚を感じながら、精密で確実な作業ができる機能を搭載。ロボットの外にカメラを置かなくても、視点を変えながら対象物や地形を見ることのできる有線給電ドローンと俯瞰映像合成システムを搭載し、精密な作業や複雑な地形での移動が容易となっている。

2建設ロボット搭載要素技術(出所:ニュースリリース※PDF)

なお、研究チームは、上記の技術以外にも、複数の有用な要素技術の開発を行っており、今後は順次、それらを搭載していくという。また、操作する関節数の多い複腕ロボットを容易に操縦できる遠隔操作システムの開発も進めており、これらの技術の導入でより実現場に近い環境での作業実験に進む計画だとしている。